赤色に染まる白の君《2》 (ページ50)

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❤不穏な影ページ50

ジャックside

僕達の身体が入れ替わって数時間経つ。自分の部屋で寛いでいると、突然嗅ぎ慣れない臭いが鼻を突いた。

「(何だ、この臭い)」

ダルメシアの体だからよく分かる。まるで腐ったドブのような臭いだ。そんな刺激集が部屋の外、廊下から漂ってくる。
ベッドで寝転がっていた僕はすぐ起き上がり、慎重にドアまで近づいて耳を当てた。………音はしない。

「(でも嫌な予感がする)」

動物特有の勘ってやつかな。背中に氷でも当てられたような嫌な感じがして、恐る恐るドアを開けた。
顔を出して左右を見てみる。やっぱり誰も居ない。真っ暗な廊下の先から気配すらしない。……でも臭いだけは強く僕の鼻を刺激している。

「(何だろう、一応連絡しようかな)」

携帯を取り出してグループチャットを開く。夜中だとエースかエイトフットが起きてるはずだ。気づいてくれればいいけど……

メッセージを打とうとした瞬間、ピチャッと水の音が聞こえた。

「っ！？」

咄嗟に音のした方を向いても何も無い。ただダルの耳は、遠くから聞こえる微かな音をしっかりと捉えていた。
居る。何か居る。人間じゃない。人間じゃない何がこっちに向かってくる。
直ぐにドアを閉めて鍵をかけ、メッセージ欄に「"誰か僕の部屋来て"｣とだけ打ち込んで送信する。すぐに既読がついて、エースが返信してくれた。

「"何かあったの？"」
「"僕の部屋の外に何か居る。廊下は怖いから窓から来れたら来て"」
「"分かった、今行く"」

良かった。エースが来てくれるみたいだ。ほっと胸を撫で下ろした途端、ガチャッとドアノブが動いた。

「っ…！」

物凄い臭いに思わず鼻を手で覆う。ガチャガチャとドアノブが動く中に、ビチャビチャと粘着質な音が混じって聞こえた。居る、廊下の奥に居たやつだ！
鳴り響くドアノブの音に心音が高まる。釘付けになったように動けなくなった僕の耳に、後ろの窓をノックする音が聞こえた。

「ジャック」
「エース！」

窓を開ければ、翼を広げて飛んできたエースが部屋に入ってきてくれた。彼も臭いに気づいたのか顔を顰めて「何だこの臭い」って呟いた。

「分からない。でも何か居るんだ、外に」
「……皆に伝えるか」
「その前に部屋を出よう。此処から一番遠いのって毒林檎の部屋だよね」
「うん。……僕が飛んで連れてくよ。掴まって」

差し出された手を取ってエースが窓辺に足をかけた。その瞬間、

僕の部屋のドアから、静かに鍵の開く音がした。