♡嗚呼、なんて不愉快なことだろう! ページ22
エースside
『此処か…』
スキャターと書かれたドアの文字を確認して、僕は予定表を手に軽くノックした。
角を右に曲がって四番目の部屋、ヴェール嬢の言う通りだったな。
『……?』
あれ?返事が無いぞ。
『すみませーん』
「あっ…あの〜…」
『!』
横を見るとスーツ姿の女性がそこに立っていた。メガネを掛けていてしっかりしてそうな雰囲気はあるけど、どこか抜けているような感じの女性だ。
「此処は関係者以外立入禁止なのですが……」
『知ってるよそんな事。僕はVの使いだ』
「!ミスターの使いの方?ご要件は…?」
『これ、リクルーティングの予定表。昨日伝え忘れたらしいから持ってきてあげたんだ』
予定表を渡すと彼女は「ありがとうございます!」と笑顔でお辞儀をした。礼儀はなってるじゃないか人間のくせに。でも赤くないな、ペンキで真っ赤に染めてやろうかな。
「でも珍しいですね、人間の方を使いの人にするなんて…」
『……は?』
人間…?
『誰が人間だって?』
「え?」
『聞き捨てならないな。僕が人間だと本当にそう思うのか?』
近づいて睨みつけてやると、ソイツは一歩後退りした。何をどう見てそう思ったんだこの小娘は。
「で、でも雰囲気が私と同じ…っ」
は?
『何だ?僕が人間みたいだとでも言うのか?』
無性に腹が立つ。目の前の女に近づいて、僕は見下ろすように言ってやった。
『良いか人間。僕はハートのクイーンの手下、エース・ハートだ。女王様の作られたトランプ兵の中でも一番優秀なこの僕が、人間のような下賤な存在と同じだって?』
「す、すみません…!そういう意味で言ったつもりは…っ」
『何をどう見てそう思ったのかは知らないが、気をつけることだね。ただでさえ赤じゃなくてイライラするのに、僕に無礼な言葉をかけたら…』
片手に斧を出して首筋に突きつける。金色の刃に「ひっ」と声を上げても、僕は全く気にしない。
『首を刎ね落としてやる』
「斧を降ろせ、エース」
背後に向けられた刃物の気配に、視線だけ後ろに向ける。いつのまに来たのか、ホックが僕に鋭い鉤爪を向けていた。
「スキャターが無礼を働いたなら謝ろう。だが館内での魔法の行使は禁止されているはずだ。落ち着いて"空間を直せ"」
『……』
ぐにゃりと歪んだ廊下、窓、天井。ああ、つい魔法を漏らしちゃったか。
『ごめんよホック。僕も気が立ってたんだ、許してくれ』
斧を降ろして空間を戻すと、彼女は小さく溜息をついた。
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作者名:九龍 -くーろん- | 作成日時:2022年10月20日 0時