赤色に染まる白の君 (ページ24)

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♡一番であることはとても重要だページ24

エースside

張り詰めた空気に、喉が引き攣った。無いはずの心臓がドクドクと脈打って体が冷えていく。床に突き飛ばされたまま、僕は上体だけをジャックに向けて固まっていた。

「何で君は言うことを聞いてくれないの」

その冷たい声に背筋が震えた。冷ややかな赤い瞳が僕を見下ろして離さない。部屋のドアは開け放たれたまま、ジャックはじっとドアの前で僕を見下ろしていた。
顔に影がかかって見えない。逆光の中に立つジャックは今どんな顔をしているんだ？いや、違う。僕が言うことを聞かないだって？こんなにも従順な僕が？

『"ジャック、僕はそんなつもり無かったんだ"』

そう言おうとして口を開いたら、声が出なかった。唇が震えて、いつの間にかガタガタと体が震え始める。どうして？何でこんなにも震えが収まらないんだ。
冷や汗が止まらない。突き飛ばされた時に飛んだ帽子は床の上。おかげで嫌なほど見晴らしが良くて、ジャックから目が離せない。
どうしよう、どうしよう、何でジャックはこんな怒ってるんだ。僕が何をしたんだ。普通に会話をしただけだ、機嫌を損ねることなんて言ってない。彼が不機嫌にならないように気を遣って、

"優秀な子だよ君は"

ビクッと体が跳ねる。聞こえたのはジャックの声じゃない。

"一番成績がいいなんて凄いじゃないか！"
"一番マトモな意見出してくれるよね～助かっちゃうよ"
"今日も一番か！お前は何でも一番だな～！"

誰、誰なんだ。誰の声なんだっ、知らない。僕は知らない…っ！

"ほんと、一番使い勝手が良いよね、アイツ"

『っ………！』

ヒュッと喉が鳴る。目が熱くなって、何かが頬を伝って顎からぽたりと落ちた。

『っ、ジャ、ジャック、ぼ、僕、僕は…っ』

何で何も言ってくれないの。何で黙ってるの、どうして、僕何かした？ジャック、ジャック…っ

「……ごめん」

そっと優しく抱き締められた。とく、とく、とジャックの心音が伝わって、温かくて、水でふやけるように力が抜けていく。

「ごめん。ヤキモチ焼いちゃったんだ。ごめんねエース。僕が悪かった」
『……だ、大丈夫。大丈夫だよジャック。僕は平気だから』

抱き締め返すとジャックは僕の頭を撫でてくれた。その手付きは優しくて、ポロポロと目から溢れる水が増えてしまう。

「泣かないで。そんなに泣いたら僕ふやけちゃうよ」

笑いながら水を拭ってくれるジャックに、僕は『ごめん』と笑い返す。
あの声は、いつの間にか聞こえなくなっていた。