散らばる星はその地で輝く -9-【短編集】

欲しいものは唯一つ【魈・2024.4/17】 ページ34

魈side

この日は少しばかり、我の周りが騒がしくなる。
誕生日とやらを祝う為に、旅人を始め様々な人々が祭り騒ぎのように賑やかしに来るのだ。

流石に何度も祝われれば場の空気にも慣れてしまう。元々人の多い所を好まぬ我であっても、多少は顔を出してやる程度には慣れたつもりだ。

「(それでも未だ馴染めぬものだな……)」

大人数での賑やかな空気は肌に合わない。望舒旅館の屋根の上で1人風を浴びながら、昼間旅人に誘われて盛大に開かれた祝宴に参加した時の記憶を遡っていた時だった。

『あ、居た居た。やぁ仙人様』
「……！」

この声は……。……彼奴か。

「何だ」

下に声をかければ、奴は身軽な動きで屋根の上に飛び乗ってきた。
闇夜に溶けるような黒い衣に、首元にかかる赤いマントが風に揺れる中、奴は『こんばんは』と笑顔を我に向けた。

「お前から我に会いに来るとはな。何か用か」
『用って程じゃないんだけどさ。相棒から聞いたよ？今日は君の誕生日なんだってね？』
「……あぁ」

全く…此奴にまで言いふらしたのか……。

『昼間のどんちゃん騒ぎはそれだったのか。俺も誘ってくれれば良かったのに』
「お前はあのような場は好まないだろう」
『よく分かってるじゃないか。隣、良いかい？』
「……好きにしろ」

言えば奴は我の隣に腰を下ろす。隣に見える端正な横顔を見ていれば、ふと奴の口が動くのが見えた。

『君にとって誕生日なんて何でも無い日に過ぎないんだろうけどさ。こうして話に来る程度のサプライズはあってもいいだろ？』

肩を竦めて奴は微笑む。生誕を祝う言葉を言うでもなく、ただ静かに我の傍に座り景色を眺め始めた。

……お前は本当に、頭の回る男だな。

「ツヴェート」
『ん？』

お前は我の事をよく理解している。静かな場と独りの自由こそ我に合っていると理解している。
だが、お前は少しだけ…我をよく理解できていないようだな。

声をかけ、振り向いた奴の顔。その顔が我を見つけるより先に、その唇に静かに口づけをした。
触れる程度の口づけは微かな体温と淡い草の香りを残して離れていく。ぽかんと目を丸くする奴に向かって、我は静かに笑ってやった。

「贈答品の一つぐらい、貰っても文句は無いだろう？」

そう答えてやると、ツヴェートは顔を赤くして口元に手を添えた。

『誰がプレゼントだって………っ？』
「お前の事だ」
『〜っ！』


嗚呼………此度の贈答品は、とても甘く優しい夢のようだ。



Happy Birthday 魈！

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