いつかの夢を見るかの如く【魈】 ページ33
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嘗て、糸に繰られていた悪夢を見た。
我の身は己の意志で動かず、ただ望まぬ殺戮を繰り返した。あの御方に掬われなければ、業障に蝕まれる前に己の心が壊れていただろう。
我にもうあの時のような糸は無い。あのような悪夢も見る事は無い。だが奴を初めて見た時、同じような目をしていたのを覚えている。
それは生の気を感じないガラス玉のような目だった。淡々と殺戮を行い、その行為に一切の感情すら無い者の目をしていた。
それは、嘗ての我の目だった。全てに諦めかけていた頃の、我自身の瞳だ。
ツヴェートと名乗る雪の使者は、あの雪山に囚われた幼子のような者だった。
人から与えられた存在意義の為に動き、命じられた言葉以外を知らない。機械仕掛けのような男だった。
旅人の手によって雪山の外に連れ出されたその男の瞳に映る世界は、きっと我が見ている世界より輝いて見えたのだろう。
同行していた我が見た奴の顔は眩く輝いていて、その表情に我は__
一瞬にして、目を奪われた。
「お前は容易に傷ついていい者ではない」
その顔は散々見ている例の執行官の顔。それでも尚別人と分かる黒い装いに、色濃く輝く紫の瞳。
髪から手を離し、奴の頬に手を添える。困惑を浮かべるその顔もそのままに言葉を紡いでいく。
「我にとってお前の代わりに成る者は居ない。我の知るお前はこの場に居るお前だけだ。だから、そう簡単に傷を作ろうとするな」
あの雪山の地下で、お前は深淵の魔手に呑まれかけた。その時にお前が浮かべた顔を、叫んだ声を、我は忘れはしない。
ただの傀儡だったお前に旅人が心を注いだ。草神の元に居る従者が情を教えた。なら、我は__
「……我は、お前が傷つく姿を見たくはない」
我はお前に、自身の尊さを与えよう。その身がどれ程尊く唯一無二のものであるかを、この手で守る事によって示そう。
我はそれしかお前に示す事が出来ない。だがそれならばお前にも教えられる。自身の大切さを、尊さを。
『……好きにしてくれ』
奴はそう言って食事を再開する。その顔は困惑と動揺、そして赤く熟れる程の羞恥を帯びて熱を持っていた。
「言われずとも」
我は忘れぬ。共に過ごし、言葉を交わし、人形から人になっていったお前があの時に叫んだ言葉を。
闇の魔手に溺れかけたお前が放った、心からの願いを。
"死にたくない"と我を喚んだのだ。ならば我は命を賭して、何者からもお前を護ろう。
欲しいものは唯一つ【魈・2024.4/17】→←いつかの夢を見るかの如く【魈】
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ゆらぎ(プロフ) - いえいえ、全然オーケーです!!こちらこそ採用してくださりありがとうございます! (5月5日 1時) (レス) id: 8914fbacd3 (このIDを非表示/違反報告)
九龍(プロフ) - ゆらぎさん» コメントありがとうございます!エヴァは私があまりよく知らない作品でして……申し訳ありません……。ですがシチュエーションはとても良いと思いましたので、そちらを採用させて頂きます!満足にリクエストに応えられず申し訳ありません! (5月4日 10時) (レス) id: 69e5a75295 (このIDを非表示/違反報告)
ゆらぎ(プロフ) - リクエスト受理してくれてありがとうございます!またリクエストでエヴァンゲリオンってできますか?エヴァに取り込まれた主人公組とパイロットの恋人組、みたいな、、?無理を承知ですがお願いします! (5月3日 19時) (レス) id: 8914fbacd3 (このIDを非表示/違反報告)
orchid~オーキッド~ - ありがとうございます!よろしくお願いいたします! (5月1日 13時) (レス) id: 47c56abe73 (このIDを非表示/違反報告)
九龍(プロフ) - orchid~オーキッド~さん» リクエストありがとうございます!話数的に次回に回ると思いますが、書かせて頂きます! (5月1日 1時) (レス) @page50 id: c0b6840b43 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:九龍 -くーろん- | 作成日時:2024年3月8日 21時