昏い深淵を照らす鷹よ《2》

第四幕 -アカツキワイナリー- ページ7

ディルックside

「此処にはもう慣れたかい？」

食事の後、綺麗に片付けられたテーブルを挟んで、僕はフラッドと雑談をしていた。
彼が此処に来て3日目。この3日で彼がどんな思いを抱いているのか気になっていたんだ。

『正直まだ慣れていないかな…。けれど此処の良さは沢山見つけたよ。風が心地良くて、自然豊かで…』
「そうか…。……良かった」

君には少しでも安心して過ごして欲しい。居心地が悪いと思われていたらどうしようかと思っていたが……その心配は無さそうだ。

「不満があったら遠慮無く言ってくれ。できる限り応えよう」
『ありがとう。でも今は満足しているよ。大丈夫』

微笑む彼の表情はとても嬉しそうだった。紺色の瞳が心の底からの喜びを示していた。
その笑顔を見た時、不覚にも少しときめいてしまった。何でだろうな、自分の顔なのに。

「(あんな顔もできるのか……)」

無邪気な子供のように純粋な感情をそのまま表に出す表情。それは今の僕にはきっと出来ないだろう。
彼だから出来て、彼の表情だから胸を打たれたんだ。そしてそんな顔を僕に向けてくれたという事実が……何よりも嬉しかった。

「君の事を少し見誤っていたよ」
『…？どういう事だい？』
「君はもう少し臆病な人だと思っていたんだ。だから僕は皆に"彼が安心できる環境を与えるように"と伝えた。けれど君は思っていた以上に行動的で、勇敢な人だったみたいだ」
『そ、そんな事は無いと思うけど……』

彼は困ったように視線を机に落とす。が、不意に『そうだ』と声を出して彼が僕へと視線を移した。

『ずっと訊きたかったんだが、どうして君は僕の正体を知りながら、皆に自分のように扱えと言ったんだい？』

あぁ、その事か。簡単な話さ。

「君が僕の姿をしているからだよ」
『僕が……？』
「そうだ。確かに君の正体はアビスの魔物だ。でも何も知らない人からしたら、僕と同じ姿の君は"兄弟"にしか見えない。それなのに君に戸籍が無かったら…どうなると思う？」
『……！僕を怪しむ人が出てくる』
「その通り。そして君の正体を知った時、その人はどう思うだろう？」

正体を知った人々は君を魔物として討伐し、僕は魔物を匿った人間として処断される。ワイナリーの評判も落ちるだろう。

「家の名前一つでそのリスクが無くなるんだ。単純な理由だろう？」

……それに……。



「(また兄弟になれたら、なんて。僕にそう願う資格なんて無いのにな)」

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