昏い深淵を照らす鷹よ《2》

第六幕 -決意の明星- ページ37

ディルックside

『そうか……。じゃあ君が僕達の元に来たのは偶然だったのか』

彼に今までの事を説明し終えると、フラッドは申し訳無さそうに表情を曇らせてしまった。

『完全に僕の失態だ。二人は勿論、君にまで迷惑をかけてしまった』
「そんな事は無い。あのままだったら君は死んでいたかもしれないんだ。寧ろ偶然とは言え、見つける事が出来て本当に良かった」

ベッドに横たわる彼は未だ痛々しい姿だ。それでも穏やかに微笑む彼の笑顔を見るだけで、彼が此処に居て生きている事を実感する。

「怪我は痛むかい？医者に診てもらったけど、君はアビスの魔物だから万が一と言う可能性もあるだろう？」
『大丈夫だ。今の僕は人間と同じ体だから、医者の判断を信じてもらって構わないよ。多少は痛むけど……これ以上悪くもならないだろう』

そうか……。……良かった。ひとまず安心して良さそうだ。
……そうだ。

「フラッド」
『ん？』
「さっきは何を話してたんだ？ぼんやりとしたまま鷹がどうのとか言ってたが……」

あの時の君はどこか上の空だった。呟いていた言葉も抽象的でいまいちピンと来ない。

『話？……身に覚えはないが…』

訝しげな顔をする彼に先程見た事を話すと、彼は『本当に憶えていない』と首を横に振った。

『でもその話を聞く限り、もしかしたら記憶の蓋が開きかけたのかもしれないな』
「……！」

記憶の蓋……。そうか、君は魔物になる前の記憶が無かったんだったな。

『だとしたら残念だ。それがきっかけで思い出せたかもしれないのに』
「…すまない……」
『謝らないでくれ。僕の様子がおかしかったら止めたんだろう？ありがとう、ディルック』

……どういたしまして。

『君も疲れただろう？僕はもう大丈夫だから、アデリンに交代して休んでくれ。何かあったらすぐ君に言うから』
「ん……分かった。約束だよ？」
『勿論』

穏やかに微笑む彼を見るだけで幸せな気持ちになる。座っていた椅子から立ち上がって彼に手を振り、そっとドアを閉めた。

「……」

本当に良かった。もう目を覚まさないかと思った。でも彼は、こうして帰ってきてくれた。
……なら、次に手を付けるべきは……。

「(あの破片についてだろうな……)」

それは彼を此処に運び入れた時、旅人が見せてくれたものだ。
問題は波のように押し寄せてくる。気持ちを切り替えるように息を吸い込んで小さく吐き出してから、彼の部屋を立ち去った。

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