第四幕 -アカツキワイナリー- ページ4
フラッドside
この3日の間で、僕を取り巻く環境は大きく変わった。
ラグヴィンド家の人間として迎えられたからか、僕はワイナリーの人達からディルックと同じような扱いを受けていた。
ラグヴィンド家は旧モンド貴族家の一角。ディルックからそう聞かされていたけれど、一般人の僕にはどうもまだ慣れなかった。
貴族に雑務をさせるなんて無礼にも程がある。そんな理由で僕は嘗てやっていた仕事を一切させてもらえなくなった。
おかげで今じゃすっかり暇人だ。仕事ばかりの毎日を過ごしていた僕にとって、暇は一番の苦痛だった。
清泉町では木を切ったり、畑を耕したり、家の事が終わったら近所の手伝いに行っていた。それが今では……。
『(居場所が無いな……)』
そう、居場所が無い。この屋敷の中はとても窮屈で、息がしづらかった。
そんな僕の心休まる場所は、葡萄棚が広がる外だった。
屋敷の中は窮屈だ。それでも扉の先に出てしまえば、自由な風が僕を出迎えてくれた。
『……はぁ……』
淡い葡萄の香り。爽やかな草木の香り。小さな葉音。風が運ぶ香りと音を一身に感じると、不思議と心が落ち着くんだ。
『(…なんて心地良いんだろう…)』
実り豊かなこの土地は、何処に居たって変わらない風を送り届けてくれた。
『…ん?』
ワイナリーを囲う塀に手をついて葡萄棚を見渡していたら、左の列にある葡萄棚の中に一つだけ色の悪いものを見つけた。
思わずその葡萄がある葡萄棚の元に行き、色の悪い葡萄を手に取った。他の葡萄より粒も小さくて色も悪い。周りの葡萄に栄養を取られ、充分に成長できなかったのだろう。
【"出来損ないめ"】
『……』
僕と同じだな。見た目が悪い、質が悪い。そうして切り取られ、捨てられていく。
『…君は立派になるといい』
僕は出来損ないとして捨てられてしまったけれど、君は立派な葡萄になれる筈だ。
『……よし』
僕もこのままじゃ駄目だ。僕にだって此処で出来る事がある筈なんだ。いつまでもこうして暇を潰している訳にはいかない。
葡萄から手を離して立ち上がる。屋敷の外には落ち葉が結構溜まっているし、掃き掃除ぐらいはしても大丈夫だろう。そうと決まれば早速行動だ。
僕は近くにあった箒を手にして、その場を後にした。
背後の葡萄棚の上を小さな鯱が泳ぎ、鮮やかな葡萄に澄んだ水を振り撒いていた。
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九龍(プロフ) - 暁月臨さん» コメントありがとうございます!風邪をひかない内に更新しますので、服を着る準備もしてくださいねー! (3月28日 10時) (レス) @page38 id: 69e5a75295 (このIDを非表示/違反報告)
暁月臨(プロフ) - あ…あ…尊いです語彙力なくて申し訳ないですけど本当に好きです…(脳死)更新全裸土下座で待機させていただきます…!!! (3月28日 4時) (レス) @page38 id: efeff932b9 (このIDを非表示/違反報告)
九龍(プロフ) - もにもちさん» これからディルックさんはどうなるのか…楽しみにして頂けると嬉しいです!フラッド君は今張り切ってますので絶好調ですね!これからも戦い続けますよー!適度に休んだりしていますのでご心配なくー!ですがお声掛けして下さりありがとうございます! (12月23日 22時) (レス) id: 69e5a75295 (このIDを非表示/違反報告)
もにもち - いやぁ、、、ディルック様気付き始めましたねぇ、、ふふふ、、、フラッド君強すぎじゃありませんこと?もう大好きなんですけど、まじで。はい。、、、ほ、本当に大丈夫ですか?体調とか時間とか、、、理由はなにかれ、なんであれ自分の体を労ってあげてください!! (12月23日 21時) (レス) @page26 id: 4864a15202 (このIDを非表示/違反報告)
もにもち - えめっちゃ続きが気になる〜!!神作品2個目、そして更新ありがとうございます!これからも頑張って下さい!体調には気をつけて。 (12月10日 6時) (レス) @page16 id: 4864a15202 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:九龍 -くーろん- | 作成日時:2023年12月6日 1時