第五幕 -己の進むべき道- ページ24
ディルックside
手にした蝋燭が暗い室内を照らす。静かな夜に包まれたワイナリーの中に、キィとドアの軋む音だけが響いた。
「……」
彼は居ない。あの藍色の彼は今、旅人である二人の元に居る。
目の前に広がる僕の部屋と同じ家具が揃えられた室内は、主を失ってすっかり冷え切っていた。
彼を此処に迎え入れると決めた日からずっと、この気持ちは何だろうと考えていた。
彼は魔物だ。それも一度殺そうとした相手だ。それに今の彼だって自分と同じ姿をしていて、知らない人が見れば兄弟だと勘違いする程、僕と彼は容姿がそっくりだ。
なのに僕は彼を気味が悪いと思わなかった。此処に彼を迎え入れて、一緒に生活して、僕の中のこの気持ちはどんどん大きくなっているように思えた。
それはなんと言うべきだろうか?父さんやガイアに抱いていたものとは違う。アデリンやワイナリーの皆に抱いているものとも違う。
視界に入れば目で追ってしまって、彼の仕草一つに惹きつけられて、こうして彼が居ないと……不安になるような。
「(これは、何だろうな)」
彼の部屋に入って、手燭を机に置いて椅子に座る。ぼんやりと照らされた彼の部屋を見渡しても、彼のものらしい物は一つも無かった。
アデリンが掃除をしているのもあって、彼の部屋は埃一つ無く磨き上げられている。いつ彼が帰ってもいいようにという彼女なりの気遣いだろう。
……ワイナリーの皆もよく賛成してくれたものだ。反対意見も受け入れると言ったのに、皆は僕の気持ちを否定しなかった。
「"ディルック様がそうしたいと仰るなら、我々は貴方の判断を信じるまでです"」
そう言って快く彼を迎えてくれた皆には感謝しかない。きっと彼も同じ気持ちだろう。
「……ん?」
何だ……?机の引き出しから、何かはみ出て……。
「…これは……」
はみ出たそれを引き抜くと、それは僕が彼に送った手紙だった。
赤い梟の印が付いた手紙。僕と彼が初めて言葉を交わしたものだ。中に入っていたのは、初めて彼と文通した時の手紙だった。
まさか…。
少しだけ引き出しの取っ手を引けば、空っぽだと思っていたその中には……僕が送った手紙が、僕の手紙だけが、引き出しの中を占領していた。
「……っはは…!」
そうか。彼にとって僕の手紙は、此処に持ち込むぐらい大切なものになっていたのか。
初めての手紙から、最後に交わした手紙まで。大切に保管されているその引き出しの中からは、彼の心の温もりが感じ取れた。
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九龍(プロフ) - 暁月臨さん» コメントありがとうございます!風邪をひかない内に更新しますので、服を着る準備もしてくださいねー! (3月28日 10時) (レス) @page38 id: 69e5a75295 (このIDを非表示/違反報告)
暁月臨(プロフ) - あ…あ…尊いです語彙力なくて申し訳ないですけど本当に好きです…(脳死)更新全裸土下座で待機させていただきます…!!! (3月28日 4時) (レス) @page38 id: efeff932b9 (このIDを非表示/違反報告)
九龍(プロフ) - もにもちさん» これからディルックさんはどうなるのか…楽しみにして頂けると嬉しいです!フラッド君は今張り切ってますので絶好調ですね!これからも戦い続けますよー!適度に休んだりしていますのでご心配なくー!ですがお声掛けして下さりありがとうございます! (12月23日 22時) (レス) id: 69e5a75295 (このIDを非表示/違反報告)
もにもち - いやぁ、、、ディルック様気付き始めましたねぇ、、ふふふ、、、フラッド君強すぎじゃありませんこと?もう大好きなんですけど、まじで。はい。、、、ほ、本当に大丈夫ですか?体調とか時間とか、、、理由はなにかれ、なんであれ自分の体を労ってあげてください!! (12月23日 21時) (レス) @page26 id: 4864a15202 (このIDを非表示/違反報告)
もにもち - えめっちゃ続きが気になる〜!!神作品2個目、そして更新ありがとうございます!これからも頑張って下さい!体調には気をつけて。 (12月10日 6時) (レス) @page16 id: 4864a15202 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:九龍 -くーろん- | 作成日時:2023年12月6日 1時