昏い深淵を照らす鷹よ《2》

第四幕 -アカツキワイナリー- ページ11

フラッドside

翌日から、僕にも皆と同じように仕事が回ってくるようになった。
酒樽の運搬、ディルックが処理した書類の提出、アデリンに頼まれての庭掃除や倉庫の点検などなど……。いざやるとなると重労働ばかりで、最初はもうヘロヘロでディルックに心配された程だ。
でも動き回っている間は、最初抱いていたような窮屈な空気なんて吹っ飛んでいた。やっぱり僕は仕事をしている方が落ち着くらしい。

慣れない仕事もやっていけば慣れていく。疲れ果てる事も少なくなり、一週間経った頃にはすっかりこの生活に慣れてしまった。

『よっと……』

大きな酒樽を荷車に乗せ終えてから一息つく。首元にかけたタオルで汗を拭っていると、「お疲れ様です！」とアーネストが駆け寄ってきた。

「後は此方でやっておきますので、フラッド様は休憩なさって下さい！」
『ありがとう。君も適度に休んでくれ』

午後は仕事は無かった筈だ。さて、何をしようか……。

『(ディルックに声をかけて稽古でもしてもらうおうか…？)』

彼との訓練も順調に進んでいる。最初は柔軟や基礎的な動きを学んだが、今では模擬戦に近い訓練をする程だ。仕事に慣れてきたのも、ディルックとの訓練によって体力がついたからだろう。
でもまだ彼は仕事中だろうし、邪魔をする訳にもいかない。となると元素力の操作訓練でもして……。

「お、随分と楽しくやってるじゃないか」

……！この声は……！

『ガイア！』
「しー…っ、アイツに見つかると色々と煩いからな」

ワイナリーの入口には、片手を上げて挨拶をするガイアの姿があった。
久しぶりだな。元気そうで何よりだ。でも、どうしてワイナリーに？

「お前の顔が見たくなってな、つい来ちまった。それにしても清泉町に居た時とは見違えるように変わったな、お前」
『そうかい？』
「あぁ。以前のような臆病さが少し消えたように見えるぜ？」

そ、そうかな……？僕なんてまだまだだと思うけど……。

「そうだ。なぁ、今時間あるか？騎士団の奴らもお前も近況を知りたいって煩くてな。それに俺もお前が上手くやれてるか心配だったんだ。良かったら少しだけ俺とお喋りしてくれ」
『喜んで。旦那様には内緒に、だろ？』
「理解が早くて助かるぜ友よ。じゃあこっちで話そうか」

ガイアは葡萄棚の中に歩いていく。彼についていくと、ガイアは丁度葡萄棚で隠れる位置にある岩の上に腰掛けた。

「さてと…。じゃあ早速、お前の話を聞かせてくれ」

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