開幕 ページ1
幼い鯱の物語は、きっとあの後も続いているのだろう。今となってはもう、物語の結末すら憶えていないけれど。
その扉は新たに始まる生活の入り口だ。この先に待っているのは、僕ですら予想できない未来。
『……』
木製の大きな扉の前。僕は手にした地図を上着のポケットに仕舞い、荷物を蓄えた鞄を持ち直した。
アカツキワイナリー。モンドが誇る酒の聖地。今日から此処が僕の家になる。
清泉町を出る前、此処の主たる彼にはあの時の返答を綴った手紙を送っている。彼も僕の覚悟は知った上で待っているだろう。
『……よし』
意を決してドアをノックする。コンコンと鳴る軽いノック音の後、扉は案外早く開かれた。
「ようこそいらっしゃいました、フラッド様」
扉の向こうには以前僕を案内してくれたメイド長の女性が立っていた。確か名前は……アデリンさん、だったかな。
「どうぞ中へ。ディルック様がお待ちです」
彼女の案内に従って中へと足を踏み入れる。昼の光が入る屋敷は開放的で、前来た時とはまた別の印象を僕に与えた。
此処には彼が居る。あの時僕の身体を焼き、守ってくれた仲間を焼き殺した彼が。
……怖いさ。考えれば考える程、恐怖で体が震えそうになる。でももう決めたんだ。後戻りは出来ない。
「待っていたよ、フラッド」
その声が彼の登場を物語っていた。
真っ赤な髪、真っ赤な瞳、黒いコートを翻してやって来る同じ顔の青年。いいや、僕が彼の姿を真似してるのか。
『お久しぶりです、ディルック様』
「そう畏まらないでくれ。自分の姿で礼儀正しくされると、何だか擽ったい」
『でも……』
「僕に敬語は必要無い。敬称も要らないから、僕の事は"ディルック"と呼び捨ててくれ。主である僕がそう言っているのだから、他の人も文句は言わないさ」
彼はそう言って微笑んだ。その目には敵意も殺意も無い。あるのは喜びと期待の色。
『……なら、遠慮無く』
そんな目をするのか、君は。嗚呼、やっぱりこうして会う方が手紙よりしっかりと君を理解できる。
彼は満足げな様子で、黒と赤の手袋に包まれた手を僕へと差し出した。
「手紙はしっかりと読ませてもらった。それを踏まえてもう一度問おう。……本当に、良いんだな?」
……勿論だ。その為に来たのだから。
『あぁ。これから宜しく頼む、ディルック』
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九龍(プロフ) - 暁月臨さん» コメントありがとうございます!風邪をひかない内に更新しますので、服を着る準備もしてくださいねー! (3月28日 10時) (レス) @page38 id: 69e5a75295 (このIDを非表示/違反報告)
暁月臨(プロフ) - あ…あ…尊いです語彙力なくて申し訳ないですけど本当に好きです…(脳死)更新全裸土下座で待機させていただきます…!!! (3月28日 4時) (レス) @page38 id: efeff932b9 (このIDを非表示/違反報告)
九龍(プロフ) - もにもちさん» これからディルックさんはどうなるのか…楽しみにして頂けると嬉しいです!フラッド君は今張り切ってますので絶好調ですね!これからも戦い続けますよー!適度に休んだりしていますのでご心配なくー!ですがお声掛けして下さりありがとうございます! (12月23日 22時) (レス) id: 69e5a75295 (このIDを非表示/違反報告)
もにもち - いやぁ、、、ディルック様気付き始めましたねぇ、、ふふふ、、、フラッド君強すぎじゃありませんこと?もう大好きなんですけど、まじで。はい。、、、ほ、本当に大丈夫ですか?体調とか時間とか、、、理由はなにかれ、なんであれ自分の体を労ってあげてください!! (12月23日 21時) (レス) @page26 id: 4864a15202 (このIDを非表示/違反報告)
もにもち - えめっちゃ続きが気になる〜!!神作品2個目、そして更新ありがとうございます!これからも頑張って下さい!体調には気をつけて。 (12月10日 6時) (レス) @page16 id: 4864a15202 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:九龍 -くーろん- | 作成日時:2023年12月6日 1時