散らばる星はその地で輝く -5-【短編集】

《リクエスト》誰のものか理解しているのか？-5-【リオセスリ】 ページ10

ラヴィーネside

苦しい。痛い。苦しい。苦しい。

『げほ！う゛っ…』

吐き気を抑えて蹲る。廃棄された生産エリアまで来れば、大丈夫だと、思ったから。

『(今日は、一段と……酷いな……っ)』

身体の奥底から嫌な感情が吹き上げるようで、ぐるぐると回る視界に、気分が悪くなっていく。
思わず膝をついて咳き込むと、真っ黒な水がポタポタと零れ落ちた。

俺は、人の悪意を吸い取れる。
"純心の水"と言う水の所為で、俺の身体は悪意を敏感に感じ取り、人に触れるだけで、その人間が抱いている嫌な感情を吸い取る事が出来た。
でも、俺にも限界はある。普段ならある程度悪意が溜まっても処理できたんだが、多忙で休めていなかったのもあり、悪意の処理が上手く出来なかった。


【何で私がこんな目に…】
【アイツうざいんだよな。話しかけないで欲しい】
【このぐらいの小さな仕事をやらせるなよ…面倒くさいなぁ】


日常の何気無い悪意が混ざって、俺の中で膨らんでいく。
凝縮された悪意は俺を蝕んでいく。口を押さえて必死で呼吸を整えるが、込み上げる不快感にまたぐっと吐き気がした。

『(吐いたら、拙い…っ)』

悪意を含んだ水は他の水に溶けやすい。もし要塞内の水に溶けでもして、それが皆の生活用水に混じったら…
きっとこの要塞内が地獄と化すだろう。人間にとって、複雑な悪意は一滴でも耐えられるものじゃない。

『っ…』

苦しい。今すぐにでも暴れ回って、この言いしれない不快感、嫌悪感、どうしようもない怒り、苦しみ、全部を発散したい、気が、狂いそうだ……っ
どうして俺がこんな目に、俺ばっかり、俺ばっかり、俺、ばっかり……っ


「ラヴィ」

声が聞こえた。声のした方を見ると、公爵が、立っていた。

「こんな所に居たのか。ほんとお前ってやつは…無理するなってあれだけ言っただろ？」
『うる、さい……っ』

煩い、煩い、うるさい……っ！俺の、苦しみなんて、分からないくせに……っ！
ぐるぐる、ぐるぐる、嫌な感情が、身体を支配していく。

「……また他人の悪意を吸ったのか」

すっと目が細められる。その目に、ビクリと身体が震えた。

「言ったよな？無闇に悪意を吸うなって」

一歩、また一歩、公爵が近づいてくる。怖い、怖いっ、怖いっ！

『来るなっ！』

思わず拳を振り切って放った氷の杭は、彼に当たる事無く壁にぶつかった。


「危ないだろ」

髪を鷲掴まれて、顔が上に上がる。目の前に見えた公爵の顔は、氷より冷たかった。

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