《リクエスト》夜闇に紡ぐ言の葉-3-【ディルック】 ページ30
フラッドside
夜は嫌いだった。あの時の暗闇を思い出して、泣きそうになるから。
あの日、目の前で消えていった彼女を思い出すから。
月夜を見上げながら歩いていく。血に濡れた体を引きずって。
疲れた。敵が多かった。神の目が手元から離れたから、邪眼まで使った。
『(帰りたい…)』
大剣を引き摺って歩いていく。水の使徒と同じ服に包まれたこの身体からは、とめどなく深淵の水が溢れ出す。
『……』
あの時、こんな力があったなら。彼女も救えたのだろうか。
ふと見上げた夜空には、森の木々に隠れながらも眩く光る月が見えた。
"月はね、恋人にプレゼントする言葉にもなるんだって!"
"なにそれ。そんな言葉があるのか?"
"お兄ちゃん知らないの!?じゃあ__が教えてあげる!えっとねぇ〜……"
『……月が、綺麗だな』
確か、そんな言葉を教えてもらった気がする。
誰だっけ……?あの子は、誰、だっけ………。
「そうだね。このまま時が止まればいいのに」
……は…。
『…ディルック……?』
「帰りが遅いから迎えに来た。手酷くやられたね、フラッド」
真っ赤な夜襲用の服に身を包んだ彼が俺の元にやって来る。
ディルック、ディルック、僕の、僕の、好きな人。
「っと……」
ぐらりと身体が傾いて、僕はそのまま彼の腕の中に倒れ込んだ。
『ディルック』
「何だい?」
『ディルック』
「うん」
『ディルック……』
「僕は此処に居るよ、フラッド」
……彼の体温だ。彼の、温もりだ。
恐る恐る抱き締める。今の僕の手は鋭い爪を持つ異形の腕なのに、彼は嫌がらずに抱き留めてくれた。
「お疲れ様。嫌な事を思い出したのならゆっくり休もう」
身体が持ち上がる。彼が僕を抱き上げて歩き出す。
『疲れた』
「そうだね」
『身体が痛い』
「怪我をしているからね。後で手当しよう」
『……妹が、居ないんだ』
「…君の事を見守っているよ。きっと、この世界の何処かで」
………。
『…そうだと、いいな…』
……ディルック。
『月が、綺麗なんだ』
ディルック。
「うん。こんな日は、死んでもいいと思えるよ」
僕の、愛しい人。
『……愛してる』
「僕も愛しているよ、フラッド」
居なくならないで。ずっと側に居て。もう、誰かを失うのは嫌なんだ。
嫌なんだ。もう、誰かを守れないのは、嫌、なんだ。
「……おやすみ、フラッド」
意識が落ちるのと同時に、優しい彼の笑顔が見えた。
その笑顔はとても懐かしくて、何だかとても、泣きそうになった。
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orchid〜オーキッド〜 - 最高です!かなり無茶なリクエストしたのにも関わらずクオリティ高いものを用意して頂いてありがとうございます!これからの活動もすっごく楽しみにしています! (12月11日 13時) (レス) id: 47c56abe73 (このIDを非表示/違反報告)
もにもち - ヤァバァイもう天才ですかあなたは!!天才ですね!!めっちゃうるっと来ましたよ〜!泣 はぁ!今日も頑張れそうです!更新ありがとうございます!これからも頑張ってください!!ずっと応援してます!あ、体調には気をつけて。 (12月11日 6時) (レス) @page44 id: 4864a15202 (このIDを非表示/違反報告)
orchid〜オーキッド〜 - 九龍さん» ありがとうございます!もし何か分からないことあったら教えてください! (12月10日 21時) (レス) id: 47c56abe73 (このIDを非表示/違反報告)
雷デット - ありがとうございます!! (12月10日 19時) (レス) id: d5e1296c27 (このIDを非表示/違反報告)
九龍(プロフ) - 雷デットさん» リクエストありがとうございます!書かせて頂きます〜! (12月10日 17時) (レス) id: c0b6840b43 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:九龍 -くーろん- | 作成日時:2023年12月3日 22時