いつか訪れる日を描く【鍾離】 ページ21
劉斗side
以前、花が見たいと言った事がある。
俺は溶岩から生まれた存在。熱いこの手で触れた草木は燃えて消えてしまうから、花を手に取り、近くでその香りを楽しみたいと言った憶えがあった。
「花など愛でてどうするつもりだ」
友はそう言って俺の言葉を両断した。岩に囲まれた土地から大地を見下ろす彼の目には、そのような小さな命を愛でる余裕など無かったのだろう。
『大切な事だ、友よ。小さな命はやがて巨大な生命へと変わる。大地に根付く石粒一つも積み重なり岩となり、世界を覆う大地となる。足元の小石に気を配るほどの余裕が無ければ、人を導く神にはなれないさ』
手に取った砂の温かさは、未だこの手に残っている。
「おい、しっかりしろっ!劉斗っ!!」
……鍾離……?……俺は、どうなって……。
「駄目だ、出血が止まらない……っ」
「どうしよう、どうしよう…っ!このままじゃ…っ」
「死なせないっ!死なせないから……っ、絶対死なせないからっ!!」
旅人……小娘も、居るのか……。………あぁ、思い出した……。
そうだ、俺は確か……旅の途中で、ヒルチャールに襲われて……。
……そうか、俺は…旅人を守る為に前に出て、斧で斬られたんだったな……。
右腕の感覚が無い。恐らくもう、俺に右腕は無いのだろう。
斜めに斬り裂かれた深い傷からは血が溢れ出ている。焼け付く炎の血だ。それでも必死で止血をしようとする旅人は涙を浮かべて、煙をあげて焼けていく指すら厭わずに俺の命を繋ごうとしてくれている。
『……いい』
もういい。助かりはしない。自分でも分かるんだ。血を失いすぎた。
地面に倒された身体には力が入らない。皆の声が遠く聞こえる。これはもう、駄目だろう。
「死ぬな」
ふと見れば、鍾離が俺の手を握っていた。辛そうな顔で、血に塗れた俺の手を握っていた。
「死ぬな、劉斗……っ」
『……鍾、離……』
ゴポッと音を立てて血が吐き出される。涙を浮かべる旅人と小娘に笑いかけて、小さく首を横に振った。
二人が何かを必死で叫ぶ。俺はその言葉を無視して、鍾離へと視線を向けた。
『……はなが、みたい……』
「……花……?」
あぁ、そうだ。花が見たい。お前と共に、美しい花を。
「……旅人、すまない」
身体が持ち上げられると、ビチャビチャと血が落ちる音がする。鍾離の体温が、冷えた身体に染みていく。
駆け出す彼の振動が、いつか感じた岩の揺り籠の鼓動のように感じて、酷く懐かしかった。
いつか訪れる日を描く【鍾離】→←《リクエスト》印に刻む愛の意味-5-【ディルック】
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orchid〜オーキッド〜 - 最高です!かなり無茶なリクエストしたのにも関わらずクオリティ高いものを用意して頂いてありがとうございます!これからの活動もすっごく楽しみにしています! (12月11日 13時) (レス) id: 47c56abe73 (このIDを非表示/違反報告)
もにもち - ヤァバァイもう天才ですかあなたは!!天才ですね!!めっちゃうるっと来ましたよ〜!泣 はぁ!今日も頑張れそうです!更新ありがとうございます!これからも頑張ってください!!ずっと応援してます!あ、体調には気をつけて。 (12月11日 6時) (レス) @page44 id: 4864a15202 (このIDを非表示/違反報告)
orchid〜オーキッド〜 - 九龍さん» ありがとうございます!もし何か分からないことあったら教えてください! (12月10日 21時) (レス) id: 47c56abe73 (このIDを非表示/違反報告)
雷デット - ありがとうございます!! (12月10日 19時) (レス) id: d5e1296c27 (このIDを非表示/違反報告)
九龍(プロフ) - 雷デットさん» リクエストありがとうございます!書かせて頂きます〜! (12月10日 17時) (レス) id: c0b6840b43 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:九龍 -くーろん- | 作成日時:2023年12月3日 22時