それが拙者の役目だ ページ44
万斉said
「晋助様っ、後ろっ!!」
その声が聞こえた瞬間、晋助の元に迫る巨大な影が見えた。
蛇だ。先程の蛇の群れとは比べるまでもなく巨大な大蛇が、晋助を飲み込まんと口を大きく開けていた。
「くそ…っ!」
距離が遠い…!この大広間は旅館なだけあって大人数を容易く収められる程の広さがある。それが今では仇となった。
走り出す。襲いかかる小蛇が足に、太ももに、脇腹に牙を突き立てる。痛みに足の力が抜けかけるが、力を込めて晋助の元に走り、その顎が晋助の身を呑むより先に弦を放った。
弦は大蛇の口に猿轡のようにして引っかかる。そのまま弦を強く引けば、大蛇の首は後ろへと仰け反った。
「逃げろ晋助っ!」
「っ、足が縫い留められた!暫く力比べしてろ!」
「無茶を言うなっ!このようなデカブツと競り合える程っ、拙者は剛力では無いっ!」
言っている間にも弦が強い力で引っ張られる。負けじと弦を引き戻しながら、拙者は鬼一の方へと視線を向けた。
「……ぁ…」
ドクリと心臓が跳ねた。拙いと本能が警告を鳴らす。
溶けている。全身のヒビ割れから血のように黒い液体を流したまま、鬼一はぐったりとして動いていない。
晋助に斬られた腕も再生していない。耳が捉えるのは、ヒビ割れが進むような小さな音と、弱くなっていく海の波音。
「(死ぬ)」
その言葉が脳裏をよぎる。死んでしまう。今度は冗談ではない。本当に死んでしまう。
どうすれば良い…っ!?拙者が手を離せば晋助が食われる。だがこのままでは、鬼一が……っ
「……!また子っ!」
「はい…!?」
「先程貰った海水を晋助の足にかけろ!」
「……!はいっス!」
拙者では無理だ。この蛇の動きを止めるだけで精一杯だ。なら他の者に行かせた方が良い…!
また子が海水の入った瓶を持って晋助の元に向かう。その間に、拙者は弦が数本千切れようと構わずに三味線を振り切った。
グンッと弦が大蛇を引き上げる。宙を舞って背後へと落下した大蛇に向かって、拙者は鬼一から奪い取った拳銃を向けた。
「主の相手は拙者でござる」
石の大蛇が首をゆっくりと引き上げる。巨大な牙の隙間から覗くのは、血のように赤い口内だ。
「(鬼一が正気に戻るまで、時間を稼ぐ…!)」
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作者名:九龍 -くーろん- | 作成日時:2023年8月10日 23時