玖：ガスマスクと漆塗りの箱 ページ10
虎杖side
真正面から拳を撃ち出す。チリッとフードの端を掠めた拳は、拳を水の中にでも突き出したかのような自然な動きで避けられた。
間髪入れずに膝を抜いて低い姿勢から顎目掛けて拳を突き上げても、それすら躱される。さっきから避けられてばかりだ…！
｢こンの…っ！｣
体勢を直して再度拳を振りかぶると、ソイツはまた躱す構えをした。
が、俺の目的は殴ることじゃない…！
｢そらっ！｣
咄嗟に姿勢を変えて足払いをする。
ガツッとソイツの足に当たった感触がして、俺の目論見通りにソイツはドシンッと尻餅をついて倒れた。
｢もらった！｣
そのまま俺は、ソイツが被っているガスマスクを剥がそうと手を伸ばした。
「……え」
ちょっと待て、コイツ…！
｢い゛っ！？｣
突然後ろに引っ張られて、ドシンッと尻餅をつく。
気がついた時には俺が座り込んでて、男が立って俺を見下ろしてた。やり返された…！
『……』
ソイツは暫く俺を見下ろした後、くるりと背中を向けてコトリバコの方へと歩き出した。
白いスニーカーが血濡れの畳を踏みつける。ソイツはコトリバコの前まで来ると、真っ黒な手袋に覆われた手で箱に触れた。
ソイツが触れた瞬間、コトリバコはまるで溶けるようにバシャリと音を立てて消えてしまった。
｢なっ…！？｣
コイツ、コトリバコを消した…！？
いや、でもまだあの圧迫感がある。って事は……まさか！
｢馬鹿っ、何やってんだっ！！｣
俺は知ってる。呪物を取り込むって事が、どれ程危険な事なのかを。
咄嗟に飛び出して腕を掴もうと手を伸ばす。が、伸ばした手は雑に掴まれるとそのまま振り回され、壁に叩きつけられた。
｢ぐっ…！｣
後頭部を打ち、思わず声が漏れる。俺が立ち上がる暇も無く、ソイツがふらりと俺の方へと歩いて来るのが見えた。
ソイツの足元から黒い水のようなものが湧き出る。それはたちまち俺の周囲を取り囲むと、鋭い楔を持った無数の鎖に変化して切っ先を俺に向けた。
あの水から武器を生み出すのか…！？それよりもこの状況、どうすれば…っ！
『…』
無言の圧が降り注ぐ。ゆっくりとソイツの手が持ち上がり、ヒュッと降ろされた。
｢はい、そこまで｣
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作者名：九龍 -くーろん- | 作成日時：2021年1月12日 16時
