弐拾漆:初めての感情 ページ28
伏黒side
「これで全部か…」
玉犬達を影に戻しながら一息つく。
流石に疲れたな…。下から沸き出ていた呪霊はほぼ全滅したし、今のところ呪力も感じられねぇ。一応安全だろう。
「(それよりも途中から聞こえたあの金切り声…上の方からだったが、二人は無事か…?)」
さっきから全く上からの音が聞こえねぇ。俺も上に行った方がいいか…?
「あ、伏黒!」
聞こえた声に顔を上げると、虎杖と榎森が階段から降りて俺の方に来るのが見えた。
二人ともボロボロだな、大丈夫か?
「そっちは無事か?」
「この通り元気!掠り傷とか打撲が主で、でかい怪我は榎森が治してくれた!」
「そうか、それなら安心だ」
なら良かった。後はさっさと帰って……ん?
「なんか…前と雰囲気違うな?」
「ん?」
「いや、此処に来る前より存在感があるっつーか…」
今の榎森はなんか、人間って感じがする。
『…まぁ、色々あってな』
「っ!?」
虎杖の声…!?…まさか、
「…あーと、その、実は…」
虎杖が言いづらそうにしていると、榎森がガスマスクを外してフードを取った。
ツンツンと跳ねた薄茶か薄い桃色にも見える短髪と、色白だが虎杖と同じ顔。猫みたいな大きい吊り目には、宝石みたいに綺麗な紫色の瞳が嵌っていた。
「まぁその…話せば長くなるんだが、事情があって俺の姿になってもらったんだ」
『今は帰るぞ、立てるか?』
「あ、あぁ…」
声も虎杖と同じだ。でも虎杖より低く落ち着いて聞こえる。
……何だ、この気持ち。何故か初めて見た気がしない。胸に込み上げたのは、津美紀に対する気持ちと同じ…
「(調子狂うな…)」
そっと胸に触れて目を伏せる。津美紀に抱いてる感情と同じで、でも少し違うような、何とも言えない気持ちが胸を支配していた。
「どったの伏黒?」
「…何でもねぇよ」
手を離して二人の後に続いて歩き出す。廃マンションから出ると、虎杖が「なぁなぁ」と俺の隣に来て榎森に聞こえないぐらいの音量で話しかけてきた。
「アイツ、すっごい強かったんだよ!俺思わず見蕩れちまってさぁ」
そうして榎森の話をする虎杖は、とても楽しそうに会話を弾ませる。その頬が少しだけ上気していることに気づくと、胸がモヤモヤした。
「(…何だ、この気持ち。こんなのは初めてだ)」
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作者名:九龍 -くーろん- | 作成日時:2021年1月12日 16時