弐拾陸:やっと話せた ページ27
実side
『さっきはすまなかった。上手く体の制御が出来てなかったんだ。…って、聞こえてないよな』
手を差し出すと、虎杖は俺の手をぐっと掴んで立ち上がった。怪我は…鼓膜だけか。良かった。
「えっと、榎森、だよな…?」
『そうだ』
落ちていたガスマスクを取ってから頷くと、虎杖はまじまじと俺を見てきた。
驚いても仕方ねぇよな。自分と同じ姿の人間が目の前に、しかも突然現れたんだから。
「すっげぇ…ほぼほぼ俺だ…」
『そりゃそうだろ、お前の呪力貰って身体作ってんだから。…つーか会話成立してるのスゲェな』
「いや、唇の動きでなんとなーく…」
『それ中々できねぇからな?っと、そうだ』
虎杖に近づいて耳に手を添える。「どったの?」と首を傾げる虎杖に『動くなよ』とだけ伝えてから、破れた鼓膜に対して反転術式をかけてやった。
ゆっくりと手を離して『聞こえるか?』と尋ねると、虎杖は「え、聞こえる!?」と耳を押さえながら驚いた様子で何度も頷いた。
「何したの!?」
『反転術式をかけた。ちょっと前に習ったばかりで、まだ上手く出来ねぇけど……』
「いや全然支障無し!っていうか反転術式ってめっちゃ呪力使うやつじゃん!なんかごめん!」
『気にするな。皆には随分と苦労をかけたからな、そのお礼だ』
ガスマスクを着けフードを被る。と、不意に虎杖が俺の手を掴んだ。
『どうした?』
「その、さ…。不調とか無い?俺こういうの初めてやったから、ちょっと不安で…」
『…あぁ、問題無い。上手く出来てたぞ』
ポンと優しく頭を撫でてやる。安心したように表情を和らげる虎杖を見てから、俺は『それに』と言葉を続けた。
『俺もお前達と話がしたかったんだ。お前らがやらなくても自分でやってたよ』
「…!そ、そっか……!そうだよな!やっぱり話せる方が楽しいもんな!」
『勿論だ。オススメの映画、教えてくれるんだろ?』
「え、全部聞こえてたの!?」
『全部聞こえてた』
「マジで!?」と喜ぶ虎杖は子供みてぇだ。前から思ってたが、呪術師とは思えないぐらい明るいよな、コイツ。
『下に戻るぞ。伏黒が待ってる』
「応!」
元気良く返事をした虎杖の手を取りながら階段を下りる。
久しぶりに感じた手の温もりに、俺は漸く外に出れたんだと改めて実感した。
これでやっと、話せるようになったんだ。
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作者名:九龍 -くーろん- | 作成日時:2021年1月12日 16時