弐拾肆:仮初の姿 ページ25
虎杖side
バシャリと夥しい量の液体が迸り、榎森の右腕が服を残して飛び散った。
榎森は音波の衝撃から身を守るように腕を翳してるけど、残った左腕からも液体が飛び散り、今にも崩れそうだった。
「(榎森…っ)」
このままじゃ駄目だ。頭では分かっていても、打開策が思いつかない。
この超音波をどうにかするには、目の前の呪霊の口を塞ぐしかない。でも俺はこのザマで、榎森は下手したら体が崩れる。
呪霊は音波を放つだけで攻撃はしてこない。榎森の呪力に誘われて来たんだろうけど、コイツ…榎森の身体を破壊してからコトリバコを奪おうと……っ
「(このままじゃヤバイ…っ!)」
頭が割れるように痛い。泣きたくなる程の痛みを堪えながら、必死で思考を巡らせる。
時間は無い。こうしている間にも榎森は崩れていく。下に居る伏黒だって、此処に来たとしてもこの音波の前に成す術が無いかもしれない。
今この場に居る、俺達が討つしかない。
「"名前と姿を形作る為の材料…呪力とか与えれば、肉体を再構築できるんじゃねぇのか?"」
昨日、伏黒から聞いた話が脳裏をよぎった。
「っ…、榎森……っ!!」
ドロドロに崩れていく榎森に声をかける。
榎森は今にも落ちそうなガスマスクの顔を、少しだけ俺の方に向けた。
「(反応した…!これなら…っ)」
榎森の反応を捉えた俺は、少し息を整えてから、意を決して右手を耳から離した。
途端に右耳に直接強力な音波が叩き込まれ、ブシュッと血が噴き出す音を最後に聞こえなくなるのが分かった。
「(耐えろ…っ!!)」
耳から噴き出して零れる血を指先で拭い取り、掌に印を描いて榎森の方に突き出す。
それと同時に、目の前からゆっくりと榎森の方に歩いていく呪霊の姿が見えた。榎森に止めを刺そうと動き出したんだろう。
早く、早くしろ俺…っ!
「《その御霊に仮初の器を差し出す!》」
口を動かせ…っ!痛みなんか気にするな!伏黒に教えてもらった言葉を吐き出せ!
「《姓は榎森、名は実!この名を関する器を、我が血を以て贈り給う…!》」
血で描いた印に呪力を流す。俺は力を振り絞って、榎森へと手を伸ばした。
「来いっ、榎森!!」
バシャリと、目の前で黒い液体が破裂した。
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作者名:九龍 -くーろん- | 作成日時:2021年1月12日 16時