旧友に会ったかのような気分だ ページ10
志賀said
廊下を歩き、自身の部屋へと向かう。
新入りの育成など久しぶりだ。却説、今回はどのような人間が紛れ込んでいるのやら……
『(碌でもない人間が居たら殺してやろうか)』
以前はティーフやハイエナの牙、その他マフィアに仇成す連中の鼠が紛れ込んでいた。
だが小生は寛大だ。命乞いされれば例え裏切り者と言えど命の保証はする。意地でも組に仕えるならば忠誠心を讃え殺す。今までずっとそうしてきたのだ。
ドアを会えると、ざっと5名の黒服の部下が小生の机の前に並んでいた。部屋に足を踏み入れると同時に異能を発動し、情報を読んでいく。
………一人、気になる者が居るな。情報を読もうとしても靄がかかって読めない者が居る。
これは……先程の取引の際に見た、靄に似ているような……
『待たせて済まない。今日から御前達の上司となる志賀直哉と云う者だ』
目の前に立ち、笑いかけてやる。サングラスで目を隠す部下達は小生の様子に少しばかり動揺しているようだ。
此処に入る以前に"志賀は冷たい男だ"などと云われていたのだろう。嗚呼、嘆かわしい……。小生はこんなにも部下思いの優しい男だと云うのに……
『小生の下に就いたのは当たりを引いたと思うが善い。御前達の命は決して見捨てはしない。例えこの中から裏切り者が出ようとも、その命を無駄に散らす事だけはしないと誓おうではないか』
そう言って微笑んでやれば、小生の言葉を鵜呑みにしたのか部下達は安堵の笑みを浮かべる。今回は素直な部下が多くて小生は嬉しいぞ。
此処での仕事、その他過ごしていくのに必要な情報を話していく。部屋の割り振りを話し終えてから、小生は部下達を解散させた。
ふむ、飲み込みも早くて理解力の高い者が多い。今回は小生にとっても"アタリ"のようだ。
「志賀さん」
その声を聞いた時、何故か異様に鮮明に耳に声が届いた気がした。
先程の部下の一人が笑みを浮かべて立っている。カチャリと聞こえた鍵の閉まる音に、すぐに警戒の鐘が鳴り響く。
『…何だ。小生はもう帰って良しと云った筈だ』
「個人的にお話したい事がありまして…少しお時間、宜しいですか?」
……何だ?僅かに顔を顰めると、男は肩を竦めた。
「そう警戒しないで下さい。……俺の事、憶えてない?」
男はそう言ってサングラスを外す。顕になった翡翠の瞳を見た瞬間、
『……武者……?』
今まで忘れていた、その名前が口から溢れた。
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作者名:九龍 -くーろん- | 作成日時:2023年5月20日 2時