片鱗の欠片 ページ7
志賀side
情報収集、それは小生が自我を持った時から使える能力だった。
小生の異能力は影の操作だ。然しこの力は影に触れたものの情報を読み取る。本来、影の操作だけでは出来ぬ能力だ。
この能力で数々の事をこなしてきたが、今思えば何故違和感を感じなかったのか疑問に思う。自然と受け入れていたが、小生の異能力は何処か可笑しい。
情報を読むのは夢を見るのと同じだ。
瞼を閉じれば暗い空間に無数の文字が並んでいく。記憶は映像に、文字に、画像に置き換えられ流れていく。個人情報も機密情報も、ましてや今まで行ってきた過去や胸に仕舞う秘密等も看破する事が出来るのだ。
『(……何だこれは)』
なのに、何だ?所々読めない箇所がある。
まるで靄がかかったかのように黒ずんだ靄が情報を隠してしまっている。誰かの異能力によるものか?
『(小生に異能無効化は使えない。使えたとしてもこれは当人に触れないと解除出来ない類のものだろう)』
無理やり払う事も出来そうだが、反動が来でもしたら厄介だ。中也の身を使っている以上無闇に動くべきではないだろう。
となると、次だ。
見える範囲の情報を読み込んでいく。……ふむ……、顧客の情報を全て暗記しているとは相当の記憶力の持ち主だな。
却説、小生の事を探れと依頼した者の情報は……。
"来い"
……何だ?
"こっちに来い"
"こっちに来い"
手招くような、誘い込むような声が頭に響く。
視界が歪む。情報の波が乱れていく。
"思い出せ"
"思い出せ"
"仕打ちを忘れるな"
頭が、痛い…っ。何だこれは、何だ、この……っ
「悪ぃが此処までだ」
グンと意識が引っ張られる。気がついた時には、小生の意識は中也の影に移っていた。…無理やり交代されたようだ。
「お互い初めてって事で手打ちにしましょう。…次ウチを試すような真似したら、分かってますね?」
中也の凄みの効いた声に男も何度も頷いた。流石に長時間強い重力下に居たからか、その顔には汗が滲んでいた。
「んじゃ、取り引きの方は成立という事で」
「えぇ…。後日追って連絡を」
「分かりました。では」
先程の乱闘が無かったかのように中也は一礼して部屋を出ていく。その間、痛みもしない頭に残るあの声に、微かに背筋が震えた。
……何だったんだ、あの声は……。まるで、言い聞かせるような、怨嗟に満ちた声だったな……。
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作者名:九龍 -くーろん- | 作成日時:2023年5月20日 2時