嗚呼、その笑顔が気味悪い ページ6
志賀side
意識が肉体に巡る。ぼんやりと見えていた視界が晴れると、男が驚愕の表情を浮かべるのが見えた。
「《暗夜行路》」
床全てが一瞬にして黒くなる。影はこの部屋の床だけでなく、ドアの隙間を縫って廊下、階段、この建物全ての床を支配した。
「"重力操作"」
「っ!?」
ブゥン…と異質な音が鳴る。小生の影に触れた男の体が宙に持ち上がり、そして勢い良く床に叩きつけられた。
別に殺す気は無い。故に動けなくなる程度の圧で許してやろう。
「その、黄金の瞳……っ!真逆、本当に…っ」
「応援は来ないぞ。この建物全ての床を小生が呑み込んだ。小生の影に触れている限り、この建物に居る全員床に磔だ」
眼前まで近づき、仰向けに蹴り上げる。肉に塗れた身体は弾力があって重いものだが、案外転がるものだな。
「はぁ……っ、嗚呼…!なんという幸運か!貴方が、貴方がそうだったのですか中原中也!」
「残念だが小生は中也では無い。小生の名は志賀直哉、ポートマフィアの幹部の一人だ」
「ふふ、ふふふ……っ、そうですか……お会いしたかった!嗚呼なんと美しい瞳か…!」
……何だ此奴は。気持ち悪いな先刻から……。
「そう、そうですか…。貴方が!私の救世主だ!!」
「はぁ……?」
目を見開いた男は未だ薄ら笑いを浮かべている。この危機的状況において何故そう狂ったように……
「貴方の異能が、裏の世界ではなんと云われているか……気になりませんか?」
「……!」
「"神の異能"ですよ!手に入れれば全ての異能を支配下に置く事も、永遠の命を得る事も出来る!なんと素晴らしい異能力か!」
「…御前、それを誰から聞いた」
「おっと、教えませんよ?友との約束ですので」
クツクツと笑う男は尚小生を見つめている。それはまるで人が神を崇めるかのような、光に満ち溢れた狂気的な目だ。
……知っている。小生はこの目を、前にも向けられたような……。
「貴方の異能があれば、私も永遠の命を…!」
「黙れ、小生は貴様などの薄ら汚い肉体に興味等無い」
このまま押し潰してやろうか。そう思った。だが軽く圧を強めたところでふと思いついた。
この男は小生の事を知っているらしい。なら得意の情報収集の異能で奥深くまで探ってやるのはどうかと。
「(自分の事を知るだけだ。直ぐ終わらせよう)」
何故そこまで小生の異能が狙われるのか、謎が解けるかもしれない。
小生は男を足蹴にしたまま、男の影に深く意識を集中させた。
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作者名:九龍 -くーろん- | 作成日時:2023年5月20日 2時