不穏の影は静かに迫る ページ50
「例の目標は見つけたのか」
薄暗い部屋の中、低い男がその青年を呼ぶ。
暗い室内には無数の監視カメラの映像を映すモニターが設置され、その全てが一人の男を映し出していた。
「はい。彼で間違いありません」
「そうか。……態々犯罪組織も利用したのだ、それなりの成果を貰わなくては割に合わんからな」
男はそう云って蓄えた髭を撫でる。モニターに映る真っ白な長外套の青年を見て、その瞳を喜びに歪めた。
「遂に、遂に見つけたのだ…！私の求める最高の異能力、その全てを手中に収める時が、遂に…！」
「ですが司令、彼は既に死亡しています。軍警が彼の死体を回収しに向かいましたが、その途中で監視カメラの映像全てが途切れています」
「ふん。大方囲いの連中の仕業だろう。薄汚い狗共め、そんなに異能を渡すのが嫌か」
忌々しげに呟く男に、モニターから男の方を見た青年は静かに声をかけた。
「居場所は直ぐに突き止められます。記者として潜入した彼女が彼の異能力の一端の情報を掴んでますので」
「惜しい人材を失ったな。まぁ善い、代わり等幾らでも居る。君も襤褸雑巾のように引き裂かれないよう気をつけることだ」
「それは無いでしょう。僕は彼に対して、一番有能な手札を備えていますから」
薄く微笑む青年がモニターへと視線を移す。一時停止の画面に映るその青年の姿を見て、まるで懐かしむかのようにモニターの彼に手を這わせた。
「期待しているよ。君は優秀な部下だ、くれぐれもしくじることのないように」
「はい。…蛇の眼の名にかけて」
部屋を出ていく男に一礼し、青年は椅子に腰掛ける。
ピピッと電子音がし、とあるモニターの映像が更新される。その映像を青年が見た時、彼は少しだけ目を細めた。
「……君の隣は僕のものだ」
真っ黒な外套に身を包んだポートマフィアの指名手配犯。その瞳に宿る山吹色に、彼は小さく言葉を紡ぐ。
「君は僕を憶えているのかな。…いや、僕だって君を知らない。でも、僕の中で誰かが君を呼ぶんだ」
「近い内に会いに行くよ、直哉」
星を飲み込む蛇の紋章を背に、モニターの前に座る青年は静かに微笑んだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 93人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：九龍 -くーろん- | 作成日時：2023年1月10日 1時
