長い時が経ってから伝える言葉 ページ41
太宰side
「……明日の明朝、ね」
自室のベッドに寝転がりながら、夕方に敦君から聞いた言葉を繰り返す。
檸檬型の爆弾によってまんまと爆発に巻き込まれた私は、賢治君の手によって溺死する前に助け出されたようだ。
最悪だったさ。塩水で衣服は重くなるし、飛散した船の破片で右腕をざっくり切るし、何より寒い。
何時もより分厚く巻かれた右腕の包帯を摩りながら、小さく溜息を吐き出した。
私が居ない間にどうやら探偵社に直哉が来ていたみたいで、谷崎君と与謝野さんが重傷、敦君が手足に怪我を負ったらしい。
その場に居た鏡花ちゃんが無事だった事、そして直哉が殺しにかかって来なかった事もあって全員無事だったのは幸運だった。
「それにしても…上手く考えるようになっちゃって」
私に異能力が効かないからこそ爆破を選んだ。どんな方法を使ったのか分からないけれど…直哉であれば影に潜み、私の近くに迫ってこっそり爆弾を置くなんて容易い事だ。
それに直ぐ救助されないように芥川君まで配置してた。彼の異能力なら、怪力の異能力者である賢治君を抑えられると思って行かせたのだろう。それも、私が死なない事を想定して。
「変に信頼されてるなぁ、私って」
この程度じゃ死なないだろうなんて思われているとは……。私、死にたがりなんだけどなぁ…?
「……」
出会いの場。彼はそう云ったらしい。
私と直哉が初めて出会った場所…それはたった一つしか無い。
「……はぁ〜あ……」
彼も中々頑固な子だ。私がマフィアを抜けてからずっと、私を殺す事を目的に生きていたのだろう。
それも私だけではなく、周囲をなるべく巻き込んで殺せるように何度も何度も考えた筈だ。
……伝えなかった私が悪い。あの時は気持ちも状況も、彼に向き合う暇を与えてはくれなかった。
彼がどれほど私を想っていたのかを解っていた上で、私は姿を消したんだ。
「(過去に後で後でと回していたものが、今になって跳ね返ってきたみたいだ…)」
暗い部屋の中、天井を暫く見つめてから毛布を被って寝転がる。
彼は今どんな姿をしているのだろう?私に対して、どのような顔を見せるのだろう?
あの綺麗な山吹色の瞳を思い出しながら、静かに目を閉じた。
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作者名:九龍 -くーろん- | 作成日時:2023年1月10日 1時