目に見えぬ奇襲 ページ34
中島side
一寸だけ、嫌な気配があったんだ。
新聞社を出て探偵社に戻った時、探偵社のドアの前に立った時、異様な違和感に襲われた。
まるで中に人が居ないようなそんな静かな気配で……出て行く前まで賑わっていたのに、何でこんなに静かなのか凄く不思議だった。
「(何だろう、入りたくない)」
ドアノブにかけた手が自然と止まる。変な威圧感を前に、無性に喉が渇くのを感じた。
「敦…っ」
不意に手を掴まれる。見れば鏡花ちゃんが顔を真っ青にして、ドアノブを握る僕の手を握っていた。
「入っちゃ駄目…っ」
「え……?」
確かに変な感じはするけど……。
「居るの……っ、中にあの人が居るの……っ」
「あの人……?鏡花ちゃん、それって一体…」
誰の事?そう尋ねようとした。でもその問いが出る事は無かった。
銃声がドア越しに聞こえた。
突然の発砲音に体が固まる。ビシャリとドアの磨り硝子に真っ赤な液体が飛び散り、ゆっくりと流れ落ちていくのが見えた。
「っ!!」
真逆……そんな筈無いっ!!
勢い良くドアを開ける。瞬間、僕の体は鋭い痛みと共にドアの横の壁に叩きつけられた。
「鈍いな」
低い声が冷たく声を漏らす。長い黄色の髪を指先で弄びながら、その人は机に腰掛けたまま眼鏡を片手で押し上げた。
「廃墟で出会った時はもう少し素早いかと思ったが……そうでも無かったか」
陽の光が入る探偵社の中、国木田さんはそう云って僕をつまらなさそうに見つめた。
意味が分からない。目の前の光景を拒むように心音が早まる。
机に座る国木田さんの周囲にはあの黒い影の帯が揺らめいていて、血塗れの服すら気にせずに僕を見つめている。その足元には鋭利な刃物で斬られたような傷を無数に受けて倒れる谷崎さんと与謝野さんの姿が見えた。
「谷崎さんっ、与謝野さんっ!!」
「っ……敦く、ぅ゛…っ!」
顔を上げる谷崎さんの背中を国木田さんが踏みつける。まるで喋るなとでも云うようなその行動に怒りが湧き出る中、鏡花ちゃんが刀を抜いて国木田さんの前に立った。
「…何をしに来たの」
静かな声に目の前の彼は少しだけ表情を緩める。気を許した友人と話すように、彼は…志賀は国木田さんの顔で微笑んだ。
「仕事がてら、小生の私怨を晴らしに来た」
彼の一言と共に、彼の後ろの硝子が音を立てて割れ落ちるのが見えた。
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作者名:九龍 -くーろん- | 作成日時:2023年1月10日 1時