影ある所にと言うだろう ページ27
志賀side
………動きが止まった。影から感じ取れる情報を頼りに相手をしていたが、人虎の気配がパタリと止まった。
先程小生を捕らえた者…谷崎は壁に叩きつけた。壁が瓦解しているのが何よりの証拠だ、それなりの力で飛ばしたから暫くは動けないだろう。
『(……何をしている)』
人虎は一度小生と対峙している。その際に腕を一本落としてやったのだ、それなりの力の差は理解しているだろう。
実力差を理解しているからこその隠密か?……ならば。
『《暗夜行路》』
影を広げる。床一面を覆うように展開した影から、影の帯を無数に生やした。
この部屋に居るからには必ず帯の一本に触れる。虎の身体能力は厄介だが、手数と速度は此方が上だ。
…影が触れた。右斜め、ドアのすぐ横……!
『行け』
小生の声と共に影が群がる。雪の空間を真っ直ぐ突き進む帯が、人虎が居るであろう場所を貫く………筈だった。
『っ…!?』
突然視界を覆う真っ白な光に、視界が焼かれて弾ける。咄嗟に両手を眼前に翳して目を守ったが、影の帯は強い光を浴びて霧散してしまった。
何だ今のは…っ、真逆……!!
『ぐっ…!』
体勢を整える間も無く左肩に痛みが走る。巨大な三本の爪痕が深く肩を抉り、衣服に血を滲ませていた。
『畜生風情が……っ!』
気配が背後に回った。姿勢を低くして小生に突撃する構えだ。
迎え撃つ為に振り返り影を伸ばした瞬間、カンっと軽い音と共にまた先程の強い光が部屋の中を覆った。
くそ…っ!この光の強さでは影が霧散する……っ!
強い光に影が耐え切れず霧散する中、今度は腹部に鈍い衝撃が走った。そのまま何かに押されるようにして壁に背中を打ち付ける。
鈍い痛みが脊髄を駆け上がるが、腹に感触があるなら…っ!
『《暗夜行路》っ!』
咄嗟に影を放つが当たる前に感触が消える。
床に突き刺さった影には血の一滴すら無い。手応えが無かった、逃げられたっ、何処に……、っ!?また閃光が…!
「やっぱりお前は、影で居場所を把握してたんだな」
眼の前から声がした。瞬間、小生のマフラーがぐんっと前に引っ張られ、そのまま床に押さえつけられた。
光が収まる。晴れた視界で背中へと目を向ければ、真っ白な虎の手足を持つ青年の姿が写った。
『…成程。あの人の入れ知恵か…っ』
人虎の後ろに立つ谷崎の手には閃光弾が握られている。無茶な事をするものだ。
「大人しくするんだ」
『…云われずとも』
これは一本取られた。……嗚呼、本当に腹立たしい。
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作者名:九龍 -くーろん- | 作成日時:2023年1月10日 1時