これが最初の出会いだった ページ3
中島side
本日は晴天。洗濯物がよく乾くなぁなんて思える程燦々と降り注ぐ光の下。
僕は今、街から少し離れた河川敷で濡れ鼠になっています……。
「いやぁ…、誰も尾いて来てないし今度こそは！と思ったのに…」
「いい加減に、して、下さい…っ！」
ゼーハーと肩で息をする僕なんかお構い無しに、太宰さんは「ちぇ〜」と口を尖らせて芝生の上に寝転がっている。
そう、また僕は何時もの如くこの人の特殊な嗜好に巻き込まれてしまったんだ。
出社しようと少し早い時間に寮を出たところまでは善かった。でも嫌な予感がして河川敷に向かったら、案の定川を流れていく太宰さんの足が見えて……後はもう云わなくても分かると思う…。
「(何でこの人、一寸残念なんだろう…)」
僕よりずっと頭も良くて何度も助けられた恩人に変わりないのだけれど、ジ殺癖のおかげで全部を台無しにしている気がする……。
濡れた衣服が肌に纏わりついて気持ち悪いし、そよ風が水を冷やして身体が冷えていく。ふるりと震える僕の髪から水滴が落ちた時、太宰さんが大きく溜息をついて起き上がった。
「仕方無い。観念して探偵社に行こう。立てるかい？敦君」
「…！はい！」
立ち上がると、太宰さんは水を吸って重くなった外套の裾を絞って歩き出した。何事も無かったかのように歩いて行く太宰さんに遅れないよう、僕も背中を追うようにしてついて行く。
暖かな太陽の光の中を人混みを避けつつ歩いているだけで、濡れた髪や服が次第に乾いていく。太陽って本当に素晴らしいものだなぁ。
「わ……っ！？」
不意に体に衝撃が走って、僕は体勢を崩して尻もちをついてしまった。
お、お尻が痛い……っ！硬い地面にぶつかった尻がじんじんとした痛みを訴える中、涙目の僕の前に手が差し伸べられる。
『大丈夫ですか？』
低い男の人の声だ。顔を上げた先に見えたのは、この暖かい日には似合わない藤色のマフラーだった。
真っ黒な髪に、髪とは真反対の真っ白な長外套。心配そうに僕を見る山吹色の瞳を前に、僕は慌てて「大丈夫です！」と云って手を掴んだ。
「ぶつかってすみませんでした…」
『いえ、お気になさらず。先を急いでいますので、失礼しますね』
お辞儀をして行ってしまうその人の背中を、僕は何故か目で追ってしまった。
「敦くーん！置いてくよ〜？」
「あ、直ぐ行きまーす！」
少し先で手を振って僕を待つ太宰さんの元に、僕は慌てて走って行った。
それにしても、不思議な雰囲気の人だったな…。
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作者名：九龍 -くーろん- | 作成日時：2023年1月10日 1時
