第二十一話 美女野獣 ページ22
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「気になったのだけれど。
もしかしてAちゃんは敦君が肩身の狭い思いをしたのは自分のせいだと思ってる?」
太宰は出来るだけ笑みを絶やさずに聞く。
Aは肯定の意味で頷いた。
「私は卑怯者です。
ずっと助けずに見捨ててきた。いつも近くにいたのに守ってやれなかった。
悔しいのに、苦しそうにしていたのに何もできず立ち尽くしていた。最低の人間だ。」
自分こそ、そこらへんでのたれ死んだほうが世のためだ。
少女は服の胸の部分をぎゅっと抑えて再び激しく涙した。
それを見てため息を吐きグラスのビールを飲み干すと、太宰は少女に笑いながら告げる。
「君はヒーローじゃないんだ。ただの普通のか弱い少女さ。
もし誰かが君と同じ立場だったとしても結果は変わらない。
それは思い上がりだよ」
まったく、キザな台詞をまぁ抜け抜けと。
と、独歩が呆れ、手で頭を押さえる。
一方で癒すように聞こえた優しい言葉にAは安心すると隣の敦の服を掴み、何度も嗚咽した。
「ごめんね、ごめんね」
今までの苦しさを吐き出すようだった。
それは呪文であり、子守歌のよう。
再び眠ってしまった彼女を敦は宝物を扱うように、優しく優しく抱きしめた。
「泣かないで、かけがえのない人」
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作者名:ソルジャー | 作成日時:2016年1月2日 3時