reve avec les yeux ouverts

賀歌より愛を込めて:izw ページ7

'


「この日の夜、一緒に出かけよう」


伊沢さんから唐突に提案されたのは、この日、と指定された日のちょうど2週間前。


どこへ行くとも知らされないまま迎えた当日、告げられた行先は、ここから1時間ほどの海沿いの街だった。


「日中の海も良いですけど、夜は夜で綺麗ですね」
「そうね、俺は寧ろ夜の静かな海の方が好きだな」


車を走らせた先、日中の喧騒から逃れた海には、ただ波音だけが響いている。


秋風が心地よく吹く中、浜辺の階段に腰掛けた。


「ここ、来たことあるんですか？」
「学生の頃からよく来てるよ」
「素敵なところですね」
「でしょ？ここに来て気持ちを整えてるんだけど、いつかAを連れてきたいと思ってたんだよね」


どこか懐かしむような、それでいて楽しんでいるような表情の伊沢さんが続ける。


「明日Aの誕生日でしょ？だからどうしても今日ここに来たくてさ」


ここ最近忙しく過ごしていてすっかり忘れていたけれど、そういえば明日は誕生日だった。


「覚えててくれたんですね。私、すっかり忘れてました」
「もちろん、大切な人の誕生日なのに忘れるわけないっしょ」


大切な人、という言葉が少しくすぐったい。


「それで、ちょっとこれ読んでほしいんだけど」


そう言った伊沢さんから手渡されたのは、真っ白な封筒だった。


「手紙ですか？」
「まあ開けたらわかるよ」
「うん…？」


要領を得ない回答を疑問に思いつつ言われた通りに封を開けると、これまた白い紙が1枚、短い文章が書かれた状態で入っている。


「かくしつつ とにもかくにも永らへて 君が八千代に あふよしもがな……和歌、？」
「うん、この歌知ってる？」
「今初めて見ました」
「そっか、じゃあ意味も知らないよね」
「全く…」
「これは、貴方の長寿を祝いながら何年も生き永らえて貴方が80になる年にも立ち会いたい、って意味。さらに意訳すると、貴方のそばでずっと誕生日を祝い続けていたい、って感じかな」
「誕生日を祝い続けたい…」
「そう。今までAの誕生日を祝うのは何回かあったけど、これからもずっと、お祝い出来たらなーと思って」
「あ、はい…？」
「それで、もしAが良ければなんだけど、」

そう言いながら伊沢さんが立ち上がり、私の足元に跪く。



「俺と結婚して欲しいんだ」

「さっきの和歌と合わせて贈るよ。歳をとっても、ずっとAのそばにいて、誕生日を祝わせて欲しい。どうかな？」



.

.→←.

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す