仮面を剥いだ私を:izw ページ49
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「拓司はいつ彼女作るの?」
「俺に聞かれても」
「作る気無いとか、」
「いや作る気は満々よ?」
こちらの質問に飄々と返す彼への好意を、今まで誰にも打ち明けたことはなかった。
もちろん、目の前の彼はこの気持ちなど知る由もない。
「もしかして選り好みしてる?」
「んなことするわけないっしょ」
「理想高そうじゃん」
「いや、誰でもいいから彼女になって欲しいぐらいなのに理想も何もないでしょ…」
勝手に好きになって、勝手に想いを秘めているだけなのに、吐き出された台詞にどこか身体が苦しくなる。
誰でもいいなら何故、この想いに気付いてくれないの。
今にも叫び出しそうになるのを貼り付けた苦笑で誤魔化し続け、彼と私だけの静寂が訪れる。
彼が言う"誰でもいい"は、本当に誰でもいいのだろうか。
例えばそれが、友達を演じ切った私だったとしたら?
「本当に彼女作らないの?」
「だから、作れてたらこんな苦労してねぇって」
「選んでない?」
「誰でもいいんだってば、本当に」
「じゃあさ、」
「うん」
「誰でもいいなら、私にしてよ」
「はっ?」
「本当に誰でもいいなら、私を彼女にして」
「え、…」
彼の顔が明らかに困惑の色を見せる。
あぁ、失敗したのか。
「……ごめん、やっぱり忘れて、」
やはり誰でもいい、の範疇には入っていないのだと、俯きながらその意味を強く噛み締める。
もう彼のことなど見られるはずもなく、目線を落としたままの顔が上げられない。
「A、」
「ごめん」
「いや、謝るなよ」
「本当ごめんね、これ以上迷惑は掛けないから、」
「ちょっと」
「これからも友達としてよろしくね」
早口で全てを告げて手元の鞄ごと立ち上がる。
きっともう、友達にも戻れない。
「じゃあ、」
「だから待てって」
一歩踏み出す前に掴まれた腕。
振り返った先では、いつも以上に力のこもった瞳がこちらを捉えていた。
「そりゃ友達とかもう無理だろ」
「お互い、友達のフリすんのはもうやめよう」
演じ続けた役を降りたかったのは彼もなのかもしれない。
彼と私の友達という滑稽な関係性は、遂に幕を下ろすことになる。
「Aが選んでよ、俺を」
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キタ(プロフ) - さちさん» コメントありがとうございます。まさしくミッシェルの「世界の終わり」を意識していましたので、分かっていただけて嬉しいです。拙い文ばかりですが、また更新していきたいと思いますのでよろしくお願いします。 (2019年10月29日 0時) (レス) id: 287acd08f7 (このIDを非表示/違反報告)
さち - はじめまして。「終焉のエピローグ」を読んで、初めてコメント致しましたm(_ _)m。ミェルガンエレファントの「世界の終わり」のような世界でquizknockとミッシェルが好きな私にはたまりません(*^-^*)。これからも楽しみにしています(^-^) (2019年10月28日 22時) (レス) id: 4daa7caae5 (このIDを非表示/違反報告)
キタ(プロフ) - やまうみ。さん» コメントありがとうございます。前作からということで長い間ご贔屓にしていただけて有難い限りです。例の件はこういうジャンルではままあることですので、仕方ないですね。なるべく更新し続けていけたらと思いますので、今後もよろしくお願いします。 (2019年10月14日 2時) (レス) id: 287acd08f7 (このIDを非表示/違反報告)
やまうみ。 - 初めまして、コメント失礼いたします。前作からずっと読ませていただいておりまして、どのお話も読みごたえがあり美しい文章にやられております。騒動があったなかで続けてくださる数少ない作者様の一人でいらっしゃるキタ様が憧れです、これからも応援してます! (2019年10月13日 19時) (レス) id: e8e6962fde (このIDを非表示/違反報告)
キタ(プロフ) - 佐野様>>コメントありがとうございます。良く見るお名前にびっくりしていますが、前作からお読み頂けていたなんて光栄です…!纏まりのない話ばかりですが、色々捻り出して更新してみたいと思います。佐野様の作品も楽しみにしています。 (2019年10月6日 22時) (レス) id: 287acd08f7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:キタ | 作成日時:2019年9月26日 19時