救われるのは君か僕か:kwmr ページ39
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賑やかな周囲の音とは対照的に、静まり返った一角で先に口を開いたのは彼だった。
「それって、Aちゃんは楽しいのかな」
「えっ?」
「お付き合いしていても辛いだけでしょう、楽しくもない関係を何故続けてるの?」
「それは…」
「まだ好きだから?」
私が付き合っている人について、傍から見た評価と私が思う評価は概ね一致しているのだと思う。
そうでなければこんなにも苦労する事は無いし、相談する人ほぼ全てが別れろだなんて言う筈が無い。
現に、目の前の彼も会う度に同じような意見を述べていた。
「……好きかどうか、今はもう分かりません」
「じゃあ何故、」
「彼から離れるのが、怖いんです」
「怖い?」
「一人きりになってしまうんじゃないかって、」
「そんなことあるわけ無い」
握りしめたままの手の先、爪が食い込むのよりも強く心が痛む。
振り解けないあの人の影を余りにも頼りにし過ぎていて、離し方が分からなくて、ずっと辛く哀しくて。
溢れる涙がどの感情のものであるのか、自分でも区別がつけられない。
再び訪れた沈黙を切り裂いたのは、またしても彼の声だった。
「そんな彼より、僕を選んでよ」
突如として発せられた言葉に思わず顔を上げるが、彼は表情一つ変えること無く言葉を続けた。
「使い古された言葉を使うならば、僕は君を哀しませるようなことはしないし、彼よりも深く愛してる」
「もちろん、弱っているところに漬け込むような真似をするのは趣味じゃないよ」
「でも、本当は君自身、誰かにこうやって言って欲しかったんじゃないのかな」
言葉を紡ぎ終わった彼の手が流れた涙を拭う。
呆気にとられたままの私は、どんなに滑稽な顔をしているだろう。
「あの」
「分かってる、これは僕のエゴ」
「河村さん、…」
「それでも、愛する人が苦しんでいるところをただ黙って見過ごすなんて、出来る訳無いじゃない」
先程までの彼と違い、一言発する度何かに溺れていくように表情が変わる。
「最終的な結論を出すのは君だから、僕はどうなっても、」
微かに震える声がそう呟く。
二度目に涙を拭ったのは、私だった。
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キタ(プロフ) - さちさん» コメントありがとうございます。まさしくミッシェルの「世界の終わり」を意識していましたので、分かっていただけて嬉しいです。拙い文ばかりですが、また更新していきたいと思いますのでよろしくお願いします。 (2019年10月29日 0時) (レス) id: 287acd08f7 (このIDを非表示/違反報告)
さち - はじめまして。「終焉のエピローグ」を読んで、初めてコメント致しましたm(_ _)m。ミェルガンエレファントの「世界の終わり」のような世界でquizknockとミッシェルが好きな私にはたまりません(*^-^*)。これからも楽しみにしています(^-^) (2019年10月28日 22時) (レス) id: 4daa7caae5 (このIDを非表示/違反報告)
キタ(プロフ) - やまうみ。さん» コメントありがとうございます。前作からということで長い間ご贔屓にしていただけて有難い限りです。例の件はこういうジャンルではままあることですので、仕方ないですね。なるべく更新し続けていけたらと思いますので、今後もよろしくお願いします。 (2019年10月14日 2時) (レス) id: 287acd08f7 (このIDを非表示/違反報告)
やまうみ。 - 初めまして、コメント失礼いたします。前作からずっと読ませていただいておりまして、どのお話も読みごたえがあり美しい文章にやられております。騒動があったなかで続けてくださる数少ない作者様の一人でいらっしゃるキタ様が憧れです、これからも応援してます! (2019年10月13日 19時) (レス) id: e8e6962fde (このIDを非表示/違反報告)
キタ(プロフ) - 佐野様>>コメントありがとうございます。良く見るお名前にびっくりしていますが、前作からお読み頂けていたなんて光栄です…!纏まりのない話ばかりですが、色々捻り出して更新してみたいと思います。佐野様の作品も楽しみにしています。 (2019年10月6日 22時) (レス) id: 287acd08f7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:キタ | 作成日時:2019年9月26日 19時