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「…もう、こんなこと考えるのも今日で終わりにするわ、」
「大丈夫なのですか?」
「ずっと塞ぎ込んだことばかり考えていては、先代に怒られてしまうもの」
「お優しい方ですからそんなことは、」
「いえ、先代には、この先のことを示してもらっていたの。私が一人になっても生きていけるようにって」
「はい、」
ふぅ、と長く息を吐き、意思を固めた表情で彼女が話し出す。
「良い相手がいたのなら連れ添いなさい、と、二人きりになった最後の時間に言われたわ。私は君が幸せでいてくれたらそれでいい、ってね。」
「先代らしいお言葉です」
「…それでね、拓哉さん」
「はい、」
一瞬、強い風が二人の間を通り抜ける。
「私、この先は貴方と共に過ごしていきたいの」
振り向いた彼女は美しく微笑んだ。
「僕、ですか…、」
「いきなりごめんなさい。でも、本心よ」
先程とは違い困ったように眉を下げて笑う。
ここで冗談を言うような人ではない事を、僕は良く知っている。
「しかし、僕はしがない使用人です、主人である方と共にだなんて、」
「そんなの肩書でしかないわ。その名前が無ければただの人間同士じゃない」
貴方とは後悔せずに生きていきたい。
そう言ってまた涙を蓄え始めた瞳がこちらを捉える。
「……藤の花言葉、ご存知ですか」
「ええ、良く知っているわ」
「その言葉を贈ります、Aさん」
はっと息をのんだ瞬間までをも彼女と共に腕の中へ閉じ込める。
大きく見えていた身体は自分の物より一回り小さいことに今更気付く。
「思っていたより大きいのね、拓哉さん」
「これぐらいでないとAさんを包み込むことは出来ませんから」
「ふふ、頼もしいわ」
風に藤の花が舞う。
花吹雪のようなそれに紛れてそっと口付けを落とすと、また一筋の露が頬を流れた。
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キタ(プロフ) - さちさん» コメントありがとうございます。まさしくミッシェルの「世界の終わり」を意識していましたので、分かっていただけて嬉しいです。拙い文ばかりですが、また更新していきたいと思いますのでよろしくお願いします。 (2019年10月29日 0時) (レス) id: 287acd08f7 (このIDを非表示/違反報告)
さち - はじめまして。「終焉のエピローグ」を読んで、初めてコメント致しましたm(_ _)m。ミェルガンエレファントの「世界の終わり」のような世界でquizknockとミッシェルが好きな私にはたまりません(*^-^*)。これからも楽しみにしています(^-^) (2019年10月28日 22時) (レス) id: 4daa7caae5 (このIDを非表示/違反報告)
キタ(プロフ) - やまうみ。さん» コメントありがとうございます。前作からということで長い間ご贔屓にしていただけて有難い限りです。例の件はこういうジャンルではままあることですので、仕方ないですね。なるべく更新し続けていけたらと思いますので、今後もよろしくお願いします。 (2019年10月14日 2時) (レス) id: 287acd08f7 (このIDを非表示/違反報告)
やまうみ。 - 初めまして、コメント失礼いたします。前作からずっと読ませていただいておりまして、どのお話も読みごたえがあり美しい文章にやられております。騒動があったなかで続けてくださる数少ない作者様の一人でいらっしゃるキタ様が憧れです、これからも応援してます! (2019年10月13日 19時) (レス) id: e8e6962fde (このIDを非表示/違反報告)
キタ(プロフ) - 佐野様>>コメントありがとうございます。良く見るお名前にびっくりしていますが、前作からお読み頂けていたなんて光栄です…!纏まりのない話ばかりですが、色々捻り出して更新してみたいと思います。佐野様の作品も楽しみにしています。 (2019年10月6日 22時) (レス) id: 287acd08f7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:キタ | 作成日時:2019年9月26日 19時