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ヒロインの憂鬱:izw ページ17

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最愛の人の腕に抱かれて眠る、なんて、小説のような夜を過ごしたのはいつが最後だっただろう。

抱かれる腕の当てが無いわけじゃない。

ただ、横にはいないだけ。

「今日無理になった」
「次は必ず」

そんな言葉達に期待するほど虚しくなる。
いくら気丈に振る舞っていても、一人広い部屋に放り出されると嫌でも考えてしまっていた。


闇に飲まれた思考を振り切ろうと布団へ潜った時、予定にはないインターフォンが鳴り響く。

「こんな時間に…」

誰が来たの、そう呟きながらドアを開けると、


「ごめん、来ちゃった」


目線の先には、嬉しいような困ったような、何とも言えない笑顔で手を挙げる彼が。

「どう、したの…」
「会いたくなって」
「拓司くん、仕事、」
「思ってたより早く終わったから、急いで来た」

走ったら暑いわ、と上着を脱ぎながら玄関のドアを閉める彼が本物なのかまだ疑わしいほど、急な展開に私だけ取り残されている。

「どうして、」
「Aに会いたくなった、それじゃダメ?」
「でも忙しいって…」
「忙しいからこそ会いたかったの」

抱き締められて啄ばむようなキスが降る。

「久しぶりになっちゃってごめん」
「…ううん、しょうがない…しょうがないよ、」
「悪かった」
「……ずっと、次がいつか分からなくて、一人で、でも、拓司くん忙しいから…」
「もういいよ、」
「っ、ごめん、拓司くんは悪くないのに…」
「そういうこと言うなって」

抱き締める力が強い。
いくら時間が経っても、いくら放っておかれても、この腕の中が一番好きだなんて、自分で自分に呆れてしまう。

「この先ここまで忙しいことはもうないから」
「それ、何回目…?」
「今回こそ本当、同じことにならないように上手くやってきた」
「でも、私なんか気にしなくたって…」
「だから、そうやって卑下すんのやめろって。俺が好きなもの蔑むのはいくらAでも腹立つ」
「あの、ごめん…」
「……あーマジで、こんなこと言いに来たんじゃねぇのに」

身体を離した彼が壁に凭れかかって頭を掻く。

あんなにも会いたいと思っていた人が目の前にいるのに、闇に支配されたままで何も出来ずにいる。

こういうとき、どうすれば"可愛い彼女"でいられるのだろう。

迷惑な女にならない為の引き出しなんて、生憎持ち合わせていない。


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キタ(プロフ) - さちさん» コメントありがとうございます。まさしくミッシェルの「世界の終わり」を意識していましたので、分かっていただけて嬉しいです。拙い文ばかりですが、また更新していきたいと思いますのでよろしくお願いします。 (2019年10月29日 0時) (レス) id: 287acd08f7 (このIDを非表示/違反報告)
さち - はじめまして。「終焉のエピローグ」を読んで、初めてコメント致しましたm(_ _)m。ミェルガンエレファントの「世界の終わり」のような世界でquizknockとミッシェルが好きな私にはたまりません(*^-^*)。これからも楽しみにしています(^-^) (2019年10月28日 22時) (レス) id: 4daa7caae5 (このIDを非表示/違反報告)
キタ(プロフ) - やまうみ。さん» コメントありがとうございます。前作からということで長い間ご贔屓にしていただけて有難い限りです。例の件はこういうジャンルではままあることですので、仕方ないですね。なるべく更新し続けていけたらと思いますので、今後もよろしくお願いします。 (2019年10月14日 2時) (レス) id: 287acd08f7 (このIDを非表示/違反報告)
やまうみ。 - 初めまして、コメント失礼いたします。前作からずっと読ませていただいておりまして、どのお話も読みごたえがあり美しい文章にやられております。騒動があったなかで続けてくださる数少ない作者様の一人でいらっしゃるキタ様が憧れです、これからも応援してます! (2019年10月13日 19時) (レス) id: e8e6962fde (このIDを非表示/違反報告)
キタ(プロフ) - 佐野様>>コメントありがとうございます。良く見るお名前にびっくりしていますが、前作からお読み頂けていたなんて光栄です…!纏まりのない話ばかりですが、色々捻り出して更新してみたいと思います。佐野様の作品も楽しみにしています。 (2019年10月6日 22時) (レス) id: 287acd08f7 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:キタ | 作成日時:2019年9月26日 19時

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