検索窓
今日:1 hit、昨日:7 hit、合計:86,941 hit

. ページ2

'

まだ雨は降り止まない。


そんな雨を見つめる彼が綺麗で、美しくて。
横目で薄ら彼を捉えていると、ふっと身体動き出すのが見え、気付いた時には思わず彼の手を取っていた。


「…どうされました?」
「あ、いえ、どうって訳ではないのですが、何故か貴方がこのまま消えてしまうのではないかと思って…」
「まさか、消えるなんてことありませんよ」
「すいません、そうですよね、そんなこと有り得ませんから、」


掴んでいた手を離そうと力を緩めると、次は彼の手が私を掴んだ。


「でも、もし本当に消えようとしていたら、貴方は僕を掴まえてくれるということでしょうか」
「えっ?」
「僕を、こちら側に引き留めておいていただけるのですか、」


どこか縋るような瞳でこちらを見つめている。
在るはずの無い仮定が、私を掻き乱す。



「……貴方のことはよく存じ上げませんが、いなくなりそうな貴方をそのままにしておくことは出来ないと思います」
「お優しい方だ」
「いえ、…誰でもない、貴方だから、だと思います」
「……そうですか」


どこか安心したように、薄い唇が弧を描いた。


「向こうは白んできていますね。こちらの雨もそろそろ止みそうですよ」
「本当ですね…軒先、お貸しいただいてありがとうございます、助かりました」
「いえ、こんな古ぼけたところでもお役に立てたようで何よりです」


「……あの、またここへ来てもいいでしょうか?」
「雨宿りならいくらでも、」
「そうではなくて、貴方に会いに…」
「そんなもの、断る理由なんてありませんよ……白檀、焚いておきましょうか」
「いいんですか?」
「お好きな香りではなかったですか?」
「はい、とても」


少しずつ雨は弱まり、ところどころ陽が差し込んでいる。

彼は掴んでいた手を離し、代わりに私の横顔をそっと撫でた。


「そろそろお帰りになるのでしょう?」
「はい、行こうと思います」
「またお待ちしています」
「……必ず来ます。それまで、消えずにここにいてくださいね」
「そうですね、いなくなるのは、また貴方に会えてからにしましょうか」


手を振る彼と雲間から差す光を背にして歩き出す。
恐らく何度雨に降られようと、また来るまでに彼がいなくなる事は無いだろう。

白昼夢を現実と肯定するように、白檀が風に香った。


.

逡巡する本音:izw→←ペトリコールのあとで:kwmr



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (79 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
228人がお気に入り
設定タグ:QK , QuizKnock , 短編集
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

キタ(プロフ) - さちさん» コメントありがとうございます。まさしくミッシェルの「世界の終わり」を意識していましたので、分かっていただけて嬉しいです。拙い文ばかりですが、また更新していきたいと思いますのでよろしくお願いします。 (2019年10月29日 0時) (レス) id: 287acd08f7 (このIDを非表示/違反報告)
さち - はじめまして。「終焉のエピローグ」を読んで、初めてコメント致しましたm(_ _)m。ミェルガンエレファントの「世界の終わり」のような世界でquizknockとミッシェルが好きな私にはたまりません(*^-^*)。これからも楽しみにしています(^-^) (2019年10月28日 22時) (レス) id: 4daa7caae5 (このIDを非表示/違反報告)
キタ(プロフ) - やまうみ。さん» コメントありがとうございます。前作からということで長い間ご贔屓にしていただけて有難い限りです。例の件はこういうジャンルではままあることですので、仕方ないですね。なるべく更新し続けていけたらと思いますので、今後もよろしくお願いします。 (2019年10月14日 2時) (レス) id: 287acd08f7 (このIDを非表示/違反報告)
やまうみ。 - 初めまして、コメント失礼いたします。前作からずっと読ませていただいておりまして、どのお話も読みごたえがあり美しい文章にやられております。騒動があったなかで続けてくださる数少ない作者様の一人でいらっしゃるキタ様が憧れです、これからも応援してます! (2019年10月13日 19時) (レス) id: e8e6962fde (このIDを非表示/違反報告)
キタ(プロフ) - 佐野様>>コメントありがとうございます。良く見るお名前にびっくりしていますが、前作からお読み頂けていたなんて光栄です…!纏まりのない話ばかりですが、色々捻り出して更新してみたいと思います。佐野様の作品も楽しみにしています。 (2019年10月6日 22時) (レス) id: 287acd08f7 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:キタ | 作成日時:2019年9月26日 19時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。