reve avec les yeux ouverts

ペトリコールのあとで:kwmr ページ1

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腕に感じた冷たさと、鼻をくすぐる匂いに嫌な予感がした。


「傘、持ってないよ…」


そう呟くのが早いか、空から降る大粒の雨。

生憎家まではまだ距離があるため、近くの軒先を借りて雨が止むのを待った。





「……おや、雨ですか」

音も気配もなく隣に並んだ男性がそう呟く。

「すぐ止むでしょうか？」
「どうでしょう？最近は長雨も多いですから」
「傘、忘れてきてしまったんです」
「タイミングが悪かったですねぇ」


お互いに向き合うことなく話が進む。
はっきり何かを見ていたわけではないけれど、目を見ながら話すのは今はなんだか違う気がして、そのままでいる他なかった。



「よろしければこちらを、」


漸く彼の方へ視線を向けると、差し出された手には昔ながらの手ぬぐいがのっていた。


「いえ、大丈夫です」
「何処かしら濡れたままでは体調を崩しますから。どうぞお気になさらず」
「そう、ですか…では、お言葉に甘えて。ありがとうございます」


受け取った手ぬぐいからは微かな香りが漂っている。


「これ、白檀ですか？」
「ご存じでしたか」
「この香りが好きで、よくお香を買うんです」
「なるほど。僕も同じく好きでして、こうして香りをつけては持ち歩いているのです」

そう言うと、彼はまた前に向き直る。


良く通った鼻筋、薄い唇に透き通った白い肌と、改めて彼を見るとどこか幻想的な雰囲気を漂わせている。
まるで今にもこの雨に融けていってしまうような、儚さを内包している。


「貴方も雨宿りでこちらへ？」
「いえいえ、僕はここの家主ですから」
「あっ、すいません、」
「ああ、お気になさらず。止むまではどうぞこちらをお使いください。傘が無いのでは何処にも行けません」


振り返ると、そこにあったのは大きな一軒家だった。
急な雨でよく見えていなかったが、外には黒ずんだ柱や格子、部屋をうかがうと立派な床の間も見える。


「お一人で住んでいらっしゃるんですか？」
「ええ。先代から譲り受けたのですが、なかなか広いので持て余していましてね」
「確かに時代は感じますけど、立派なお家ですね」
「僕はどうもこういう古風なものに引かれてしまうんです」
「素敵ですよ」
「それはどうも」


どこか仄暗い一面も感じさせる彼には、ピカピカと眩い新品よりも、時を重ねたアンティークの方がしっくりくる気がした。


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