感傷の雫/2 ページ3
「そーちゃん、どした」
はた、と壮五は公園の傍で足を止めた。遅れて気付いた環は、傘で飛沫をあげながらくるりと振り返る。
「ベンチに人が居るんだ」
環は彼の元に近付くと、指された方に視線を投げた。
ざあざあ降り続ける雨の下、その人は傘も差さずにぽつんと座っている。
「心配だな。ちょっと話を聞いてくるから待ってて。傘が無いようだったら、帰りは僕を環くんの傘に入れてもらってもいいかな？」
「別に良いけど」
「ありがとう」
壮五は柔らかな笑みを見せた後、公園へと足を踏み入れた。
(相変わらず、お人好しなそーちゃん)
彼の後ろ姿を、環は雨で視界の悪い中見守っていた。
◇
後ろからふっと影が差し、自分の周りだけ雨が止む。代わりにぱらぱらと軽快な音色を奏でた。
水飛沫を恐れるように、Aはゆっくりと上を見上げる。傘が自分を雨から守っているのに、漸く気付いた。
「風邪を引きますよ」
そのまま、覗き込むように傘を差した声の主の顔を見る。その顔をAはよく知っていた。
「⋯⋯壮五、さん？」
「え⋯⋯」
壮五もまた、彼女のことを知っていた。
けれど、虚ろな目で無表情に自分を映す彼女のことを、壮五は知らない。頬を伝う雨が涙にも見えて、息を呑む。
僕の知る彼女は、もっと──。
「どうしたんだ、こんなところで。みんな心配してるんじゃ⋯⋯」
「してません」
間髪入れずに強く答える彼女に、言葉も詰まる。ばっと深く俯いて、感情と対比するように粒子がきらきらと舞った。
「⋯⋯してません」
今度は、失望した自分を嘲るような、濡れた声だった。か細く掠れて情けなくて、そんな彼女の姿は初めて見る。
「ごめんなさい、ちょっと動転していて。放っておいてください」
「出来ないよ」
凛とした響きにAは目を見張った。打ち付ける雨にも負けない強い声に、縋ってしまいそうになる。
「事務所が近いから、寄っていこう。話を聞くから。それに、風邪を引いたら僕が心配する」
顔を上げると、壮五はいつの間にか向き合うように前に居た。しゃがんで、目の高さを合わせて。宥めるように、割れ物を扱うように、濡れた華奢な手にそっと触れた。
「だから、行こう？」
「⋯⋯うん」
傘を半分ずつ分け合って、公園を出る。
──雨に濡れる彼女を見つけたのが、僕で良かった。
そんな思いさえ、降りしきる雨に押し流されて、洗われてくれたら良いのにと、壮五は心の片隅で祈った。
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夢現(プロフ) - Mashiro Lioさん» Mashiroさん！いつもありがとうございます...！綺麗と言って頂けてとても嬉しいです。中編くらいで考えていたので後日譚については考えていませんでしたが、需要があるならばゆっくりにはなるかもしれませんが検討させて頂きます！その際は是非よろしくお願い致します！ (2021年8月25日 16時) (
レス) id: 7683ed39e4 (このIDを非表示/違反報告)
Mashiro Lio(プロフ) - 完結おめでとうございます！最初からずっと拝読しておりましたが、ハピエンで本当によかったです！ところで、お時間あれば後日譚など書いていただくことは可能でしょうか。すごく綺麗だなと思ったので、完結が少し寂しいものでして。ご一考いただければ幸いです。 (2021年8月24日 20時) (レス) id: 16ab2c9abf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：夢現 | 作成日時：2021年8月16日 23時
