iの雨跡/1 ページ15
「はい！ 今向かっています」
通話を繋げながら、自然と駆け足で歩みを進める。ぱしゃ、と足元で弾けた水溜まりは、青空を映していた。
乾いた傘を片手に、少女は梅雨明けの空の下を駆けた。
◇
「いらっしゃい⋯⋯わあ！」
「壮五さん！」
出迎えた壮五の顔を見るなり、Aは事務所内の玄関で飛びついた。驚きつつも、壮五はそれを受け止める。
「傘、返しに来ました」
「良かった⋯⋯良かったよ、本当に！」
捨てられなかった傘を見せながらの嬉しい報せに、壮五は共に喜んだ。自分と境遇が似ているようで違うAに複雑さはあったが、それでも後押ししなかった時の後悔より良かったと思えた。それくらい、とびきり晴れやかな笑顔をした彼女は眩しかった。
「はい！ 一部説得に時間がかかってすぐには来れませんでしたが、報告出来て良かったです！」
「時間かかったんだ。大変だったね」
「はい。そこでもう一つ、報告があって」
少し離れて、Aは畏まった姿勢を作る。壮五も倣って身構えた。
「海外に留学することにしました。支店で経営を学ぶ条件付きですが」
「え⋯⋯。それは君がお願いしたの？」
「はい！ せっかくなので学べることは学びたくて。母の口添えもあって、説得出来ました」
その時を思い出したのか、Aは遠い目で苦笑した。
「⋯⋯心配だな」
「壮五さんもですか？ 心配性だなあ。大丈夫ですよ！」
Aから視線を落として不安を顕にした壮五に、Aは明るく笑った。
心配しなくても良いと言うのに、彼は優しいから。Aは壮五の不安をどうにか払拭させたかった。
「僕に何か出来ることは無い？」
「え？ えっと、そうですね⋯⋯。心配なら、音楽を作り続けてほしいです。壮五さんの曲が空を超えて私の元に届いたら、それが私の支えになります。遠くても繋がってるなって思えて心強いです！」
Aにとって、壮五の曲は原動力で、支柱だった。
壮五が居なくなって心に穴が空いたようでも、どこかで作った彼の曲が月のように道を照らした。彼のようになりたいと、雨雲に潜む星に願いたくなった。
「わかった。君にも届くように頑張るよ」
「楽しみです！」
子どものような無邪気さで笑ったAを、壮五は静かに見守るように口端を上げた。
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夢現(プロフ) - Mashiro Lioさん» Mashiroさん！いつもありがとうございます...！綺麗と言って頂けてとても嬉しいです。中編くらいで考えていたので後日譚については考えていませんでしたが、需要があるならばゆっくりにはなるかもしれませんが検討させて頂きます！その際は是非よろしくお願い致します！ (2021年8月25日 16時) (
レス) id: 7683ed39e4 (このIDを非表示/違反報告)
Mashiro Lio(プロフ) - 完結おめでとうございます！最初からずっと拝読しておりましたが、ハピエンで本当によかったです！ところで、お時間あれば後日譚など書いていただくことは可能でしょうか。すごく綺麗だなと思ったので、完結が少し寂しいものでして。ご一考いただければ幸いです。 (2021年8月24日 20時) (レス) id: 16ab2c9abf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：夢現 | 作成日時：2021年8月16日 23時
