感傷の雫/1 ページ2
「なあ、そーちゃんはさ」
ぱしゃ、と足元で水が弾け飛ぶ。スニーカーに水が染みるのも気にせず、環は水溜まりの上を何事も無いかのように歩く。
「雨好き?」
急に降ってきた質問に、壮五は傘を少し傾げて環の顔を盗み見た。
「どうして?」
「俺たちなんつーか、雨多くね?MEZZO"もそうだけど、IDOLiSH7的にもさ」
ぱしゃ、ぱしゃり。掻き混ぜるような音を立てて、環は変わらず躊躇いも無く水の上を歩く。
軽快にダンスを踊る曲にも聴こえるそれは、ある時のライブでも奏でていた。
「⋯⋯環くんは?」
「俺?」
「環くんは雨、好き?」
質問に質問で返すなんて、卑怯かもしれない。
そう思いながらも、彼の答えを待った。嘘の無い彼の、素直な答えを。
んー、と唸る環は頭上を見上げた。ビニール傘を打ち付ける雨粒が透けている。降ってはぶつかり、弾け、落ちていく。
「嫌いじゃねーし、好きでもないけど。終わった後の虹の方が好きだし、夜は晴れてた方が星が見えるから好き」
壮五は傾けた傘を戻し、環から視線を逸らした。そっか、と相槌を打つと、今度は環が壮五の方を見る。
「そーちゃんは?」
「⋯⋯僕は」
躊躇うように、視線を落とす。シャツに染みた雨が重石となって、この場から動けなくなりそうだ。
「僕も、そうかな。好きでもないし、嫌いでもないと思う」
でも。呟きを落とすと、つうっと雫が傘を伝い、地面に落ちた。誰にも気付かれない落涙みたいなそれに、壮五は目を細める。
「虹が見られるのも、夜空が綺麗だと思えるのも、雨があるからだと思うから。雨も好きだなって思えるし、必要だと思うよ」
伏し目がちに言葉を紡ぐ壮五の顔を、環は知らなかった。
「それでも少し、感傷的にはなるかな」
「かんしょーてきって?」
「寂しいとか、悲しいってことかな」
環は、知らない顔をする壮五のことはあまり好きじゃなかった。遠くて、自分の知らない人みたいに見えるから。
けれど、安易に触れて良いものでは無いということも分かる。
壮五の瞳には、後悔と、それこそ感傷と、慈愛が混ざり合っていて。触れたら消えてしまいそうな程に、危うくて、脆くて、優しい。
「⋯⋯止まない雨はないんじゃねーの」
「ふふ、そうだね」
らしくない慰めをしたと仄かに照れる環に、思わず壮五は笑みを零す。
彼の雨に対する思いは分からない。それでも、壮五の言う感傷が、この雨に押し流されて、洗われてくれたら良いのにと、環は祈った。
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夢現(プロフ) - Mashiro Lioさん» Mashiroさん!いつもありがとうございます...!綺麗と言って頂けてとても嬉しいです。中編くらいで考えていたので後日譚については考えていませんでしたが、需要があるならばゆっくりにはなるかもしれませんが検討させて頂きます!その際は是非よろしくお願い致します! (2021年8月25日 16時) (レス) id: 7683ed39e4 (このIDを非表示/違反報告)
Mashiro Lio(プロフ) - 完結おめでとうございます!最初からずっと拝読しておりましたが、ハピエンで本当によかったです!ところで、お時間あれば後日譚など書いていただくことは可能でしょうか。すごく綺麗だなと思ったので、完結が少し寂しいものでして。ご一考いただければ幸いです。 (2021年8月24日 20時) (レス) id: 16ab2c9abf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:夢現 | 作成日時:2021年8月16日 23時