Daydreaming (ページ3)

今日:39 hit、昨日:12 hit、合計:13,743 hit

・ページ3

「読まないの、中身」
特に大きな反応を示さない私に業を煮やしたのか、先輩は口を開いた。かすかに口が不満そうに尖っている。唇が笑みを形作ろうとするのを必死にこらえた。先輩を出し抜けたような気がして嬉しかった。飄々とした顔が崩れるのを見るのはいい気味だ。でもあくまで無関心を装わなくてはならない。こてり、と首をかしげる先輩を一瞥してふんとそっぽをむく。
「何処かの誰かみたいに他人のプライバシーを覗き込む趣味はないので」
「…つまんねーの」
途端興味を失ったのかごろりとソファに仰向けになる。
しかしなにかを思いついたのかすぐに起き上がった。私を見つめる目がキラキラしている。嫌な予感がした。
「じゃあコレ、Aが燃やしてよ」
「は？」
「もういらないから」
困惑した。なんで私が、とか、燃やすって何、捨てればいいじゃん、とか、さまざまなことが頭に浮かんでは消えていく。結局何も言うことができずに、口をはくはくさせた。
「ほら」
ずいっと手紙を差し出す先輩。流石にイライラして、その手を振り払った。
「嫌です。なんで私がそんなことしなきゃいけないんですか」
悪趣味だ。サイテーだ。人の気持ちをなんだと思って。
「あ、そう」
意外なことに先輩はあっさりと引き下がった。手紙を灰皿に放り込むと、ライターで火をつける。
「あ、ちょっ…」
突然の行動にちょっと驚いた。火事にならないだろうか、と一抹の不安がよぎる。
火は舐めるようにして手紙全体を包み込んだ。端から紙が真っ黒になってゆく。
無念だなぁ恋文よ。私は同胞のような気持ちで燃えてゆく手紙を眺めた。私のこの思いだって、受け取ってもらえなければただの紙に過ぎない。当たり前だ。それがわかっているからこそ、私はこの思いを伝えない。この手紙の差出人を不憫に思いつつも、告白できる勇気が少しだけ羨ましくなる。
「あーあ」
先輩は深いため息をついた。
「残念だなぁ」
「言うほど残念そうじゃないですけど」
じとりと睨むと、先輩は笑った。いつものからかうような笑みでも、時折覗く冷たい笑みでもなかった。どこか寂しそうに、それでいて心底嬉しそうな笑顔だった。
「お前になら俺の恋を焼かれてもいいと思ったのに」
瞬間背筋が凍りつく。鼓動が激しくなり、全身を血がドクドクと巡る。
今、何と。
私はバッと先輩に詰め寄った。