唇に、さよなら。 (ページ6)

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０６：罪深い笑顔。ページ6

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｢ご馳走様でした。すげー美味しかったです。｣
｢良かった、全部食べてくれてありがとね。｣
｢いやいや、こちらこそですよ。｣

お腹がいっぱいになったのか、ウトウトした様子の平野くんは
お皿洗いは俺がやります！と、腕まくりを始めるから

｢ゆっくりしてていいよ。
私は家事するの好きだし、何も気遣わなくていいから。｣

平野くんの広い背中を押して、再びソファに座らせる。

｢平野くんが嫌じゃなければ、
一晩くらい泊まっても平気だから。
明日の朝、落し物が届いてないか交番にも
電話してみたらいいよ。｣

時間的に、管理会社にも交番にも繋がらないなら
一晩家に泊まって明日の朝、どうにかすればいい。

ただそう思って伝えた言葉に、平野くんの目がパチクリと大きな瞬きを繰り返す。

｢えっ･･･と、泊めてもらえるのは正直助かるんですけど
Aちゃんって、結婚してるんですよね？
俺、一応男だし･･･勝手に泊まるのは良くない気がするんですけど｣

意外とまともなこと言うから、今度は私が目をパチクリさせる番になる

｢まぁ、普通はそうなんだけどさぁ。
私のとこは、普通じゃないから･･･大丈夫だよ。｣
｢えっ、なにが？｣

どういう意味？と言いたげな目はスルーして

｢旦那は出張で、明日の夜まで帰ってこないし
私は、困ってる後輩を助けてあげたいだけだよ。
それって、当たり前のことなんじゃないの？｣

さっきの話の流れを、ここで持ってくるのは
少しずるいと思ったけど。

そうでも言わなきゃ、折れてくれないような気がしたから。

｢本当にいいの？泊まっちゃって。｣

不意に、タメ口になる平野くん。
距離を詰めてくるペースが早いなぁ、とは思うけど
顔がいいせいか、全く嫌な気はしない。

｢いいよ。けど、ソファで寝てね？
ベッド貸してあげたいけど、私寝る場所が変わると
なかなか寝付けないから。｣
｢ありがとうございます、A先輩！｣

私の事なんて、知らなかったくせに
調子よく先輩呼びなんてしてくる平野くんは
クシャッと目尻に皺を寄せて、それはそれは罪深い笑顔を私に向けてきた。