唇に、さよなら。 (ページ5)

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０５：一人暮らし。ページ5

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｢平野くんは、一人暮らししてるの？｣

一人暮らしにしては、広い物件のように感じるけど
私が作った煮込みハンバーグとコンソメスープを
バクバク食べ進める平野くんは、誰かと一緒に住んでたら
今頃、自分の部屋に入れてるはず。

｢はい、一人暮らしです。
でも俺、家事とか苦手で料理もできないから
久しぶりに手料理食べれて、今すっげー幸せです。｣

一人称が、“僕”から“俺”になる流れが
あまりにも自然すぎるし、
おまけに幸せだと頬を緩ませるその姿は
どこかに潜んでいた母性をくすぐってくる。

｢そう言ってもらえると嬉しいな。
なんか、美味しそうに食べてくれる姿見るだけで満足してきた。｣

目の前で、お箸を一生懸命動かしてる姿を見てたら
なんとも言えない気持ちになって、胸がいっぱいになる。

｢でも、なんでAちゃんは俺の事知ってくれてたんですか？｣

キョトン顔で、そんな質問しちゃう平野くんは
自分がいかに地元での有名人だったかよく分かっていないのか

それとも、知らんぷりしているのか

どっちでもいいけど、

｢イケメンの名前と顔は、忘れない主義なんだよ。｣

適当にそう答えた私に、平野くんがフワッと笑う。

｢そんな理由？
実は話したことあるとか、そういうんじゃなくて？｣
｢んー、話した事はないよ。
でも、｣
｢でも･･･？｣

一度、見た事あるんだ。

平野くんが駅のホームから上がる階段で
おばあちゃんが持っていた重そうなキャリーバッグを
代わりに持って、一緒に階段をあがっている姿を。

確か、あの日は駅のホームのエレベーターが
故障か点検で動いてなかったんだ。

そんな、平野くんの姿が印象的で
余計に名前が脳裏に焼き付いてたのかも。

それをそのまま話したら、

｢俺、そんなことしてたんだ。｣
｢覚えてないの？｣
｢あんまり覚えてないです･･･けど、
それって割と当たり前のことじゃないですか？｣

困ってる人がいたら、助けてあげないと。

そういう言葉をサラッと言えちゃう平野くんは
容姿だけじゃなく、中身も魅力的な人なんだろうな。と、

あの時も、勝手に心の中でそう思っていた。