唇に、さよなら。 (ページ26)

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２６：ハスキーボイス。ページ26

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その手の温度に、寂しさを委ねてしまえば
心の優しい紫耀くんのことを、面倒事に巻き込んでしまう。

だから、抑え込まなきゃ。
口から溢れそうな言葉も、目の前の唇に触れたくなる衝動も。

｢ありがとう。そんな風に言ってくれて。｣

紫耀くんの視線から逃げるように立ち上がり、
もう寝よっか。と声をかける。

｢ねえ、Aちゃん。｣
｢･･････なに？｣

洗面台へ向かおうとした私の腕をギュッと掴む。

｢Aちゃんだって、
本当は俺のこと、もっと知りたいって
思ってくれてるんじゃないの？｣

低音なハスキーボイスに、胸が締め付けられる。

｢･･････思わないよ。｣
｢･･･。｣
｢だって、もっと知っちゃったら
紫耀くんのこと、好きになっちゃうもん。｣

こんなこと言って、何がしたいんだろう。

お酒のせいにもできない状況に
私は、責任なんてとれっこない。

紫耀くんの腕を、そっと振り払おうとした瞬間
立ち上がった紫耀くんにグイッと力強く腕を引かれて
そのまま、バランスを崩すようにして
私の体は硬い胸の中にギュッと包み込まれる。

｢･･････もう、手遅れでしょ。
今更俺から逃げようとしないで。｣

耳元に降り注ぐ、甘い罠。

私が抗えないことなんて、紫耀くんはきっとお見通しだ。

｢･･････紫耀くんこそ、あとから面倒になって
逃げちゃうんじゃない？｣

その言葉に、ギュッと力の入る腕。

苦しくて、少し体を離せば
すかさず私の後頭部に手を回した紫耀くんが、戸惑う私の唇に、自らの唇を重ねた。

甘く、柔いその熱に
頭の中は真っ白になって。

自分の気持ちを何とかコントロールしていたはずの
僅かな理性は、結局なんの意味も成し得なかった。