唇に、さよなら。 (ページ22)

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２２：ヒーロー。ページ22

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大きなエレベーターに乗って、展望台まで上がれば
想像よりも遥かに綺麗な夜景が広がっていて、思わず息を呑んだ。

｢きれーい！こうしてちゃんと、夜景見るの初めてかも。｣

紫耀くんを置いて、手すり側まで走り
年柄もなく、はしゃいでしまう。

上空は、ちょっと風が強くて空気がひんやりと冷たい。

だけど、それさえ気持ちいいと思えるほど
私が今見ている景色は、美しいものだった。

｢結構、冷えるね。｣

ブルっと、肩を震わせたパーカー姿の紫耀くんは
カーディガンを羽織る私よりも、きっと寒いはず。

｢良かったら、これ羽織る？｣

重ね着しているから、カーディガンは紫耀くんに譲ろうと
その場で脱ごうとする私の手を慌てて止める、温かい手。

｢Aちゃんが、風邪ひいちゃったらどうすんの。｣

眉を顰めて、心配そうに私を見つめる目。
冷たい私の手が、紫耀くんの手のひらによって温められている。

｢･･･ありがとう、優しくしてくれて。｣

真っ直ぐ、紫耀くんの目を見て感謝の気持ちを伝える。

地元では、決して交わることのなかった私達の関係。

偶然、再会したことで縮まった距離に
素直に嬉しいって気持ちでいっぱいなんだよ。

紫耀くんからしたら、厚かましいかもしれないけど
私が既婚者じゃなかったら、

運命かもって、浮かれていたかもしれない。

｢ありがとうって言いたいのは、俺の方だよ。｣
｢･･････。｣
｢Aちゃんは、俺にとってヒーローみたいな人だから。｣
｢ヒーロー？｣

そのワードに、思い出す紫耀くんの言葉。

“ Aちゃんが悲しい時とか、辛い時は
俺がすぐに飛んでいくよ。”

あの日くれた言葉は、きっとこの先何度も私の胸を温めてくれるだろう。

｢困ってる俺の事、助けてくれて
美味しいご飯作ってくれて、沢山褒めてくれて
俺、Aちゃんと会ってから、毎日が楽しくなったんだよ。｣

キュッと上がる口角にどうしようもなく、ときめいてる。

目の前には、こんなにも綺麗な夜景が広がっているのに
隣に立つ紫耀くんの姿が、何よりも輝いて見えて

もう、紫耀くんを知らなかった頃の自分には戻れない気がした。