62(涼太Side) ページ12
俺がその声に気付いたのは多分奇跡だ。
大介「あの！すみませんっ！」
背後から掛けられた声に反射的に振り向く。
久し振りに首を回した気がした。
骨がポキポキと鳴り、滞っていた血が熱く巡り始めるのを感じる。
大介「カバンの中身が……」
涼太「……え？」
俺に声を掛けてきた男性は随分と背が低く、おまけに声も男にしては高かった。
彼は困ったような表情で暗闇に染まった道を指さす。
大介「カバンの中身が全部道に落ちてます。」
涼太「は？」
慌てて俺は持っていたカバンに目を向ける。
すると、なんと仕事用に使っている黒色のハンドバッグのファスナーが下まで下がっているではないか。
しかも片方の持ち手しか握っていなかったため、獲物を待ち受けるカバのように不格好に大口を開け、涎を零すが如くカバンの中身を道にまき散らしていた。
男性の指さす方を見ると見覚えのあるノートやファイル、筆箱も全部道に無残に転がっている。
俺は急激に顔が熱くなるのを覚え、それを隠すように慌てて足元に落ちていたUSBメモリを拾い上げる。
道がアスファルトだったので幸い汚れは少なかったが、昨日降った雨で路面がしっとりと湿っている。
残りの物も早く拾わなければ、紙類は水が染みてしまうかもしれない。
俺が慌てて走り出そうとすると、男性が俺の腕を掴んだ。
身体が後ろに引かれて体勢を崩し、踏鞴を踏む。
大介「あなたはここら辺の物を拾ってください！俺は向こうのやつを集めてきますから！」
涼太「え？」
大介「体調悪そうだから、ここで待ってて！」
男性はそう言ってサッサと走って行ってしまった。
あの子犬のような無邪気な走り方も、俺みたいな男に気を使ってくれるところも、俺の”彼女”に似てる……
なんて勝手に思って、また一人寂しくなる。
優しいあの人を傷つけたのは自分なのに……
幸せな時間にまた戻れるかもしれない、なんて小さな希望を持つことすら俺の勝手なエゴにすぎない。
涼太「……体調悪そう、か？」
俺は男性の言葉を舌先で転がすように反芻する。
そう言われればそうかも、と俺は暢気に納得した。
確かに、胃の中が嵐のようにグルグルと回って気持ち悪いし、筋肉痛みたいな鈍痛がここ最近ずっと続いて足が重いし、耳鳴りが煩くて何にも集中できない。
そうか、俺ずっと体調悪かったんだ。と思うと同時に、やっぱりあの人が居ないと俺はつくづくダメなんだなと思った。
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雛(プロフ) - まりなさん» お返事遅くなり、申し訳ありません(汗)コメントありがとうございます！本編が終わってからになりますが、リクエスト書かせていただきます。こちらこそ、これからも末永くご愛読のほど宜しくお願い致します。 (2022年1月25日 20時) (
レス) id: 9f89b51e27 (このIDを非表示/違反報告)
まりな - 初めまして、雛さんの作品をいつも楽しみに読んでいます！リクエストなのですが、このお話の中に出てくる登場人物の過去編や未来編、だてさくメイン編も読んでみたいです！宜しければ書いてくださると嬉しいです！ (2022年1月22日 13時) (レス) id: 4c6ff4de06 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：雛
| 作成日時：2021年9月19日 20時
