61(涼太Side) ページ11
佐久間大介。
俺が彼と出会ったのは今から丁度一年前のことだ。
その当時、俺は約三十年近く生きてきた人生の中で1〜2位を争う辛い時期にあった。
何を食べても美味しく感じず、いくら目を閉じても眠れず、ほとんど不眠不休で仕事に打ち込んでいた俺は恐らく人間らしい生活を送っていなかったと思う。
その当時のことを俺はあまり覚えておらず、曖昧な記憶しか思い出せないのだが、彼が「あの時のお前は酷いものだった」とよく語っているので、相当ひどかったのだろう。
食事は三日に一度すればいい方で、買い溜めしていたインスタントコーヒーをひたすら消費する日々。
冷蔵庫に入っていた牛乳は腐って悪臭を放ち、使い残ったジャガイモは芽が生えて完全に種芋化していたが、当時の俺は気にしなかった。
普段なら、料理好きの俺の冷蔵庫が汚いなど、ありえないことだったが、もう作っても喜んで目を細めて笑ってくれる人が、ここにはいないと思うと料理する意味も分からなくなった。
寧ろ、どこまでも酷く、醜くなっていく身の回りの惨状にどこか快感を覚えていた。
もっと酷く、もっと醜くもっと墜ちていけばいいと考えている自分がいた。
そんな俺を救ってくれたのが、佐久間大介だった。
その日、俺はいつも通り出勤するために仮家として借りたマンションから一番近い最寄りの駅まで歩いていた。
自宅から勤務先まで距離約10キロメートル。
俺は自家用車も持っていたし、運転も得意だったが、”彼女”との同棲を止めてから一度も乗ることはなく、ずっと徒歩と電車で通っていた。
仮マンションの駐車場に停めている愛用していた黒のセダンも近いうちに売却してしまおうと車内の荷物は既に回収している状態であとはもう、業者に査定してもらって、売り払うだけだった。
俺の仕事は朝早い。
陽が昇るのが遅い冬の日の出勤時間はまだ真っ暗で、道の電灯の明かりが太陽の代わりだ。
息をする度にフワフワと浮かぶ白い息がなんだか目障りで、俺は目を閉じた。
瞼の奥で暗い闇がグラグラと煙を巻く様に揺れている。
もう何日も、楽しかった日々を自ら捨てたことを後悔し寝ていない。
最後にゆっくり眠れたのはいつだったか思い出せない。
多分、何時間考えても思い出せないだろう。
心に蓋をした日から、昨日の記憶にも霧が立ち込めているようにボンヤリとして、ろくに憶えていないのだから。
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雛(プロフ) - まりなさん» お返事遅くなり、申し訳ありません(汗)コメントありがとうございます！本編が終わってからになりますが、リクエスト書かせていただきます。こちらこそ、これからも末永くご愛読のほど宜しくお願い致します。 (2022年1月25日 20時) (
レス) id: 9f89b51e27 (このIDを非表示/違反報告)
まりな - 初めまして、雛さんの作品をいつも楽しみに読んでいます！リクエストなのですが、このお話の中に出てくる登場人物の過去編や未来編、だてさくメイン編も読んでみたいです！宜しければ書いてくださると嬉しいです！ (2022年1月22日 13時) (レス) id: 4c6ff4de06 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：雛
| 作成日時：2021年9月19日 20時
