88(大介Side) ページ38
俺の想い人には既に忘れられない大切な人が居るらしい。
これは何となく彼の表情や仕草から気付いたわけではなく、本人の口から直接聞いた話だ。
彼は昔の恋人に囚われている。
普段は全くそれを出さないが、仕事から疲れて帰ってきた時、ボウッとしている時にチラリと寂しそうな表情を見せるのだ。
今だってそう、彼はどこを見るでもなくぼんやりと佇み、少し寂し気な表情を浮かべている。
自分ではない誰かの姿を思い浮かべて、今は居ない存在に思いを馳せている。
俺は彼の思案の邪魔をしないように、そっと彼の隣に腰を下ろした。
せっかくの休み、自室に戻って昼寝するもよし、オンラインゲームに夢中になるのも良かったが、それよりも俺は同居人と一緒に居たかった。
例え彼が自分の想いに応えてくれなくても。
俺の気配に気づいたのか、涼太はパチンとシャボン玉が弾けるように我に返り、ジッと静かにこちらを見てくる。
涼太の視線に応え、俺はスマホを弄っていた手を止め、彼を見つめ返した。
大介「腹減ったの？」
涼太「あなたこそ、何か食べます？」
涼太が力なく返してくる。
俺は口から出まかせで麺が食べたいと言った。
涼太「じゃあ俺が作りますよ、あなたはそこでのんびりしててください。」
そう言って俺の返事も聞かずに涼太はのっそりと立ち上がり、居間の隣に設置されたキッチンに向かう。
彼の裸足の肌は雪のように真っ白で、足首は手首と変わらないくらい細い。
なのに、程よく着いた男らしい筋肉も俺はとても気に入っていた。
足以外にも、彼に似合わない大きく骨張った手や、小さい歯、三角形の瞳も全て、彼を形成する全てのパーツに愛着を持っていて、ずっと見ていても一向に飽きが来ない。
我ながら重症だと自覚しながら、俺は袋麺を開けようと必死に力を込めている涼太の愛おしい後ろ姿をうっとりと見つめる。
癖のない直毛の黒髪はキッチンの蛍光灯に照らされて艶やかに輝き、神々しささえ感じてしまう。
今こうして同じ空間で衣食を共にしていることが夢のようだ。
そして俺はこれから彼の手で作られたラーメンをこの身に取り込むのだ。
俺の心の声が誰かに聞かれてたら恥ずかしくて死ねるな、というレベルで涼太に首ったけである。
この心の声を蓮が聞いたら腹を抱えて一生ネタにするに違いないな、と決して結ばれることは無い義兄弟の顔を思い出した。
俺も彼と同じように昔の淡い恋に囚われている。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 216人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「SnowMan」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
雛(プロフ) - まりなさん» お返事遅くなり、申し訳ありません(汗)コメントありがとうございます！本編が終わってからになりますが、リクエスト書かせていただきます。こちらこそ、これからも末永くご愛読のほど宜しくお願い致します。 (2022年1月25日 20時) (
レス) id: 9f89b51e27 (このIDを非表示/違反報告)
まりな - 初めまして、雛さんの作品をいつも楽しみに読んでいます！リクエストなのですが、このお話の中に出てくる登場人物の過去編や未来編、だてさくメイン編も読んでみたいです！宜しければ書いてくださると嬉しいです！ (2022年1月22日 13時) (レス) id: 4c6ff4de06 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：雛
| 作成日時：2021年9月19日 20時
