Maybe. (ページ31)

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7月初頭。局の前まで車で送ってもらったのに、ここまで歩いただけでじんわり汗をかいていた。

｢おはよ、おわ！｣
｢阿部ちゃんおはよう！会いたかったで、元気しとった？｣
｢へへ、えぇ〜？一昨日ぶりだよ｣

ドアを開けた途端わっと走り出して俺の体を抱きしめた康二を空いた片腕で支えた。

『俺と付き合わへん？』

その言葉になにか隠されているのかと最初は疑っていたものの、いつも通りスキンシップといえばこうしてハグをするくらい。

｢一昨日かあ。でも会いたかったんやもん。な、
今日もうち来ぉへん？｣

嬉しそうに抱きついていた康二が俺の耳元で内緒話をするように言う。

｢またお邪魔しちゃっていいの？｣
｢当たり前やん。ちょっとお話しよ｣

じゃあなんか買っていこうと俺が笑いかけると満足したように笑って俺のセットされていない髪の毛をくしゃりと撫でた。

元々スキンシップが多い康二との距離はそれほど変わっていないように見えても、たとえばここ数週間で家にお邪魔する回数が増えたり、楽屋内で俺が作業をしていると

｢何しとんの？お勉強？俺でもわかる？｣

といつもより気にかけてくれている、というか俺の隣にいることが多くなった気がする。

まあ、そりゃそうか。
有名な某ドラマで事実婚をしていた二人も、結局は同棲までしていたわけだし。

うん、でもやっぱりもう俺には誰かと"付き合う"って言うことが何なのか、ハッキリした定義が分からなくなっていた。

ぴょこぴょこと楽しそうに軽い足取りでメンバーに絡んでいる康二を見つめながらそんなことを思った。

よく似合ってるキャップを被ってショルダーバッグを肩にかけると元気の良い挨拶をして康二がドアを開ける。

じゃあね、と一斉に大きな声で返事をしたメンバーの喧しさは、このめちゃくちゃ暑い夏の気温にも負けていないなと思う。

ドアを開けて待っていてくれた康二の横に並んで、可愛く手を振ってくれたラウに手を振り返す。

｢うえ、なかなか廊下も暑いね｣
｢そやねぇ、夏のこの感じは嫌いじゃないんやけどなあ｣

またジワジワと出始めた汗を拭った。
額に前髪がくっつきそうでなんだか気持ち悪い。

｢そや、家行く前にアイス買ってこ！｣
｢アイス！良いねえ、俺も食べたいなあって思ってたの｣

帽子で少し顔が隠れていてもすぐにわかる嬉しそうな表情を見てふふ、っと吹き出す。

関係を持って数週間、とにかく甘やかされているような感覚がどこかむず痒かった。