Maybe. (ページ4)

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じゃあ、といつもより早めに楽屋を抜け出しエレベーターの中に入ると念入りに周囲に誰か見てないかを確認してスマホを取り出す。

「えっと、お仕事終わりました....よし」

今日の相手は何方かとトークルームを遡る。テレビ局のスタッフさんだって。スタッフさんか。上手いことやらないと、今後に響く。

考えているうちに「1階です」とエレベーター内にアナウンスが流れてドアが開く。
何気ない顔で歩き続けて局の前に止まっていた車を覗き込んだ。

『あぁ、阿部くん？』
「こんにちは。乗ってもいいですか？」

ニコリ、と微笑んで助手席のドアに手をかける。
我ながら計算高い言動だと思った。運転席に座るその人は満足気に口角を上げる。

『このままホテルで良い？』
「えぇ、良いですよ。どうぞよろしくお願いします、なーんて」

微笑みは絶やさずそう言うと少し焼けたその手が頭に伸びる。頭から伝わる体温にぞわりと背筋が震えた。
うわぁ、無視したいけど頭は無視できないなあ。
忘れていた感覚が全て鮮明に戻ってくるようで、久しぶりに自分の記憶力を恨めしく思う。

優しい相手はあまり好きじゃない。思い出すから。

やんわりと頭に置かれた手を握って自分の脚に乗せる。ほら、こうした方が唆るでしょ？お互いにね。あなたも俺も大罪人だよ、こんなの。その気になったもん勝ちじゃん。

「早く行きましょ？なんか暑くなってきちゃった」

罪悪感が湧かないと言ったら嘘になる。
でも、寂しい、悲しい、つらい、そんな負の感情を塗りつぶすためにはそれ相応のことをしないとダメだった。

俺がこんな汚いことに手を染め始めたのは、ちょうど大学に入学した頃、

今もズルズルと見知らぬ人との情事を楽しんでいるなんてただの大馬鹿者だなと、高速で通り過ぎていく大きなビルを眺めながらぼんやりとそう思った。