Maybe. (ページ15)

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浅くなっていた呼吸を正常なものに戻すため深呼吸を繰り返すと張り詰めていた緊張が解けたように力が抜けた。

どうして、どうして来てくれたの？どうしてここが分かったの？

考えられないことの連鎖に頭がパンクしてる。まだ震えている足を抱えると黒いズボンに涙と汗がこぼれおちて小さくシミを作った。

ドア付近から誰かが走ってくるような音がして反射的に身構える。

｢遅くなってごめん！大丈夫か？怪我は？ある？｣

息を切らして激しく肩を揺らした康二が部屋の壁前で動けなくなった俺の前でしゃがんだ。

｢あの、康二、その｣
｢あー！手首真っ赤っかやん！痛いやろ？消毒！消毒しよや、ほら、｣
｢いや、それより、ねえ、康二！｣

つい声を荒らげちゃった。
しまったと思って立膝をついていた康二を見ると、瞳を揺らして、泣くのを我慢しながら悲しそうに眉を下げた。
やだ、泣かないでよ。

｢俺に何があったか聞かないの？あんなの見て、気持ち悪かったでしょ？｣

そう言うと俺の目からもまた涙がこぼれた。
もう泣いてばっかだ、こんなことしてまで俺が忘れたかったのはどんな感情だったんだっけ。凄く綺麗なはずだったんだけどなあ。

｢阿部ちゃん、こっち向いてや｣
｢...ん、｣

顔を上げると少し骨ばった健康的な手が俺の頬を伝う涙を拭った。

｢もちろん、何があったか知りたいし、阿部ちゃんが気になってることだって話すつもりやで？でもその前に、阿部ちゃんの心と体のケアが先やろ。泣いてんで｣

ゴシゴシとやさしく頬が擦られる。ちょっとくすぐたかった。それに

｢ふふ、康二だって泣いてるじゃん｣
｢阿部ちゃんの分も泣いてんのよ！ 2人で泣いた方が楽になれる感じせえへん？｣
｢どういうこと、それ。俺の分って｣

慌てたようにいいの、と力技で話に区切りをつけて誤魔化す康二がおかしくて、久しぶりに心の底から笑えた気がした。