だらしない妻と神経質な夫 16

家出 ﾘｸ ページ8

私は今タクシーに乗り込み1万円で行ける所まで行ってくださいと抽象的なオーダーを入れた。携帯の電源を切り全てのGPSを鞄から取り出した私は今からカンタくんや大変お世話になった富永さん、そして大好きな子供達を裏切ることになる。こうなったのは他でもない昨夜の夢だった。

夢の中で私はカンタくんの胸ぐらに掴みかかり、私と子供に分配される時間が少ないとブチギレていた。何故私達家族を優先しないんだと怒る私を見て彼は悲しそうに一言、お母さんに似ちゃったねと言った。夢から覚めた私は夢と現実の差が分からず隣ですやすやと眠るカンタくんに心底イラついてしまったわけだ。そして完璧に夢だったと気付いた時、今思ってしまったイラつきと夢の内容に酷くショックを受けた。

私はダメな妻でダメな母親だ。やはり蛙の子は蛙。ミツバチはどう足掻いても綺麗なカラスアゲハにはなれない。そう気付いた時にはこの逃避行をする決心がついた。


｢何処か最終目的地はあるんですか？｣

『今は特に...さっき乗った場所から離れたいです』

｢分かりました。目的地が決まりましたら教えて下さい。｣


こんな時にまで人の暖かみに触れてしまうなんて。いっその事クソみたいな運転手でいて欲しかった。空気の読める運転手の優しさは今の私にとって毒だ。


｢や〜、もしかしたら雨降るかもしれないですね〜？｣


窓の外を見ると真っ青な空の向こう、私が向かう先は暗い曇天が広がっていた。

家を出てもうそろそろ30分。キイチに子供3人を任せて買い物に行くと家を出た。流石にまだ気付いて無いはずだ。冷凍庫の中には1週間分の子供達のご飯が入ってる。置き手紙をしたからしばらくすれば気付くだろう。

嫌な程照り付ける天候よりもむしろ今は曇天が広がる向こうに早く行きたかった。ここは私にとって眩しすぎる。サングラスを取り出そうと鞄に手を入れると、プロポーズされたあの日のチェキが滑り出てきた。半泣き寸前の幸せで堪らないというような私の顔が腹立たしくて仕方ない。そしてその隣には眩しいほどに綺麗な彼が写っている。私が貴方の隣を欲しがったから、不幸な子供3人が産まれてしまった。それでも逃げ出してしまう私をどうか一生許さないで欲しい。一生私を妬み恨んで欲しい。そうまでして彼の記憶に残りたい私は浅ましい女だ。


『岐阜県...』

｢はい？｣

『下呂温泉に行きたいので公共交通機関に乗れる場所まで...』

｢かしこまりました｣

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